スチームパンクTV
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井沢がドヤ顔で指し示すでかいスクリーンの中央に、カタカナの『イ』が映し出されている。
「なんだこれは」
「象徴的だろう!?テレビが開発された当初、初の電波放送で試験的に映し出されたのはまさにこの『イ』。いろはのいの字よ。今日この日はまさに後世に伝えられる『蒸気力元年』としてだな」
―――部屋の奥から『ぼしゅ』と小さな破裂音が聞こえ、いろはの『イ』がブツリと消えた。
「はっはっは、おい、蒸気力元年の象徴が消えたぞ」
揶揄い半分に笑いながら振り返って、俺は軽く引いた。
「……ま、まずいぞ」
先刻のドヤ顔はどこへやら、井沢の顔から全ての血の気が引いていた。
「どうした?」
「……蒸気機関の一部が、破裂した……!!」
「破裂もするだろ、実験には失敗はつきものだ」
「簡単に云うな!!…さっきの破裂音、恐らく…火元に何かあったぞ…」
……火元だと!?
「蒸気を発生させるために、台所のコンロの火力を使っているのだ」
「えっと…つまり…」
掃き出しギリギリのスクリーン、そしてその後ろにのたうつ蒸気の管…そしてそのさらに後ろには、蒸気をカンカンに起こす為にガンッガンに焚いたコンロがある、と。
「つまりてめぇは、金属の管がのたうつ借家の室内でカンッカンに火を焚いて、『イ』しか映らない蒸気テレビを一瞬だけ作動させ…今火元から不吉な音がしてきたぞ、と」
「……はい」
「……馬鹿かよ!!それ下手すりゃ逃げ場を失った蒸気が管に溜まってシャレにならん勢いで膨らんで破裂したりするやつじゃん!!何やってんだ、さっさと火を止めるなり何なりしてこい!!」
「いやいやいや、簡単に云うな!中に入った途端に爆発するかも知れないだろ!?」
井沢がパニック全開の表情で叫んだ。…なにお前が勝手にパニックになっているのだ。叫びたいのもパニックになりたいのもさっきまで何の事情も知らされずに裏庭に引きずり込まれた上にこんな面倒事に巻き込まれている俺の方だ。
「ど、どうしよう、敷金…敷金が…」
「何が敷金だ、これ下手したら人死にが出るぞ!!」
既にパニックのど真ん中にいる井沢は役に立たない。俺は周囲を見渡して、使えそうなものを探した。…工具がぎっしり詰まった黒いバッグが、草の陰に転がっている。俺は尻の尖った金づちを選び出し、掃き出しのガラスを開けてブラウン管周りでのたうつパイプの一つに、思いっきり振り下ろした。
「まっ…何をする!?」
「穴開けるんだよ!!」
金づちはいとも簡単にパイプにめり込み、薄い金属を打ち破った。ほぼ自腹で研究している筈なので、ろくな素材は使っていない…とは思っていたが、まさかこんなに脆いとは。
「お、お前こんな危険なくらいヨワヨワなパイプで蒸気機関とか作ってたのか!?」
「だって金ねぇもん!!」
「こんなの事故必須じ
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