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俺の四畳半が最近安らげない件
スチームパンクTV
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を乱暴に掻き分けながら、井沢は進む。
「お前これ、草刈り手伝わせる気じゃなかろうな」
「まあとりあえず、見ろ」
否定はしないのか…井沢が足を止めたので、俺も歩みを止める。そして井沢の部屋と思しき掃き出しの窓を見る……


「……おわぁあああ!!?」


悲鳴とも驚嘆ともつかない声が漏れた。
井沢の部屋は…正確には、見えなかった。掃き出しの窓を覆うスクリーンの周りを、ガラスや真鍮の管がうねるように覆いつくしている。それらは時折激しく振動し、何か蒸気のようなものを噴き出したりする。
「おっお前…借家でなにやってんの…?」
これが一体何なのか、どういうつもりで生活スペースをこの謎の機構に捧げたのか、など、聞かなければいけないことは山ほどあるはずなのだが、そんなことよりこいつが今現在、周囲に掛け続けている莫大な迷惑のほうが先に気になってしまった。俺は所詮、文系人間なのだ。
「……お前は、俺の専攻を知っているな」
「えっと…機械工学?」
「そう。そして俺は最近、前人未踏の分野に足を踏み入れた。それは」
スチーム・パンクの世界だ。そう云って井沢はドヤ顔を閃かせて俺を見下ろした。
「スチーム・パンクってお前……」
SFなんかではよく聞く言葉だ。たしか…電気をエネルギーとする今の科学文明ではなく、蒸気の力をエネルギーとする文明が進化したら…というIF設定に基づく架空世界をスチーム・パンクと呼ぶ。漫画とかでよくある設定だ。蒸気力をエネルギーとしているので、スチームパンク世界の機械は無駄にパイプが多く、馬鹿でかい。
「―――ってまさかお前」
「そのまさかだ!!」


「そのまさかだ、じゃねぇよ!!お前なに借家に蒸気力テレビとか作っちゃってんだよ!!!」


脳みそのように狭い四畳半に詰まってのたうつパイプは、掃き出しから丸見えのスクリーンに集約されている。俺は機械のことはよく分からないが、このスクリーンが『テレビ画面』に相当すること位は分かる。
「…この液晶時代に、お前なにやっちゃってんだよ。今更蒸気力でテレビ作って何の役に立つんだよ…」
「あー…SF小説が一本、書けるな」
「うるせぇよスチームパンクネタなんて50年前から出尽くしてんだよ。もう飽きられてんだよ。大体なんで自宅にこんなの持ち込んでんだよ。研究室でやれや」
井沢はゆっくりと目を反らし、そっと空を仰いだ。
「―――この研究に莫大なスペースを裂く価値は、ないと……」
「……ああ」
ようやく『蒸気力』がたまってきたらしい。静かだったスクリーンが、静かに砂嵐を映し…さあぁぁ、という懐かしさを感じる雑音を含み始めた。
「来たぞ来たぞ…見ろ、そろそろ映るぞ」
砂嵐の中に、微かにカタカナのような輪郭が浮かび出した。
「………い?」
「そうだ、『イ』だ!」

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