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王道を走れば:幻想にて
第四章、その3の1:誰の油断か
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 昼下がりの平原。雨前の厚い雲が空に架かっており、夏に似合わぬ暗い影を地面に落としている。背の低い草が生える地面を、馬に乗った慧卓が進み、ふと立ち止まった。彼は振り返り、ここまで付いて来てくれた騎士ジョゼに声を掛けた。 

「・・・此処まででいいぞ、ジョゼ」
「そうかよ?俺的にはもっと付いてってもいいんだけどよ」
「そりゃ駄目だ。なんせこっから先は、エルフ自治領だからな」

 彼が指差すのその方向には、背の低い草木の他に街道のみが伸びているだけである。視界の中にうっすらではあるが、遠くには大きな森の影が広がっており、その脇に向かって荒れた街道が続いていた。その地形が看板の代わりに、エルフ自治領の存在を教えてくれる。ジョゼは細い目でそれを見遣ってから、温かなものに変えて慧卓を見た。

「まっ、北の風土に揉まれていきな、若いの。お前の騎士の称号に箔がつくよう頑張れよ」
「御親切にどうも。俺なりにアリッサさんを支援するつもりだから、抜かりはない」
「いんや、抜かるだろうよ。利他的な行動を常習化して、するべき所で利己的な行為に移れない。そういうのを油断っていうんだぜ?気をつけろよ」
「了解、気をつけるよ。・・・そんじゃぁな」
「ああ、後ろは任せろよ」

 別れを軽くめに済ませ、慧卓は馬を進める。ちょっと歩いた所に馬車の列が止まっており、王国の樫の旗をひらひらと靡かせていた。先頭の馬車、即ち北嶺調停官の馬車へと歩き、その御者に向けて言う。

「出発です、北に行きましょう」
「承知。・・・ケイタク殿、これを」

 御者は腕に抱えていたものを慧卓に預けた。雨除けの茶褐色のロープであった。慧卓はそれをさっと羽織り、馬の歩きに邪魔にならぬよう纏め上げると、改めて号令を掛けた。

「行進、前へ!」

 馬車の列が先頭から順々に動き出す。護衛の兵を傍らに控えさせて慧卓は先導する。長旅を続けるにつれて漸く懐いてきた愛馬であるベルは、きりっとした面持ちで前を向き歩いていく。鞍越しの震動は緩やかであり、気遣いが窺えるのが微笑ましかった。
 遠くからその列の動静を見遣っていたジョゼは引き締まった顔付きをしており、背後に居た護衛の兵に向かって言う。

「・・・・・・おい」
「はっ」
「後で二人か三人、お前の裁量で適当な奴を選んで、あいつらの後を追わせろ。あいつらが任務中にやばくなったら直ぐに助けるんだ、いいな?」
「はっ!」

 ジョゼらは踵を返して馬を走らせる。彼が向かう男爵の館においては、警護任務の他、やらねばならぬ事が幾つか残っているのだ。さっさと片付けてしまった方が後々のためになるであろう。
 一方の騎士が己の職務へ走る最中、もう一方の騎士はゆるりとした足取りで北へ、北へと進んでいく。歩いてみて分かってきたのだが、平原
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