第四章、その3の1:誰の油断か
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」
慌てて慧卓は後ずさる。ユミルは狩りで鍛えた暗視で以って、続けて言う。
「ふむ・・・亡くなってまだ日にちが浅いな。分かるか?死骸全体に蛆が大して沸いておらん」
「そんなの分かりたくないですっ」
「・・・致命傷は、太腿の切り傷だな。失血死か。それに首元の傷も深い。見ようものなら、噛み付かれて無理矢理千切られたようにも見える」
「・・・え、えぇっと、それってつまり・・・」
慧卓の疑問に答える事無くユミルは立ち上がり、奥の方から差し込む光の方へと歩いていき、慧卓がその後を追っていく。光は角を曲った所から漏れているようだ。ユミルは角の近くで立ち止まり、耳をそばだてた。
『・・・し。・・・コレ、と』
「!」
手を挙げて慧卓を止め、何歩か下がらせる。そしてユミルは自分だけ中腰になりながら顔をそっと覗かせた。この通路はどうも厨房に繋がっているらしく、今まさに調理の真っ最中であった。中から二人の男の会話が聞こえてくる。
『・・・おい、出来たぞ。棟梁と、あの餓鬼の所へ届けて来い』
『・・・なぁ、俺らの分は?なんで作ってないんだよ?なんで俺らじゃなくてあの餓鬼は食えるんだよ?』
『ふざけんな。狩猟もまともに出来ねぇ癖に何言ってやがる。あとな、牢屋の捕虜は全部棟梁のもんだ。俺が捌いて棟梁が食う。文句でもあるならさっさと行けばいいじゃねぇか?てめぇらはさっさと寝て、明日獣を狩って来いや』
『だから無理難題なんだよ、それがよぉ!この辺りと俺が住んでた所じゃ、住んでる獣も、その性質も違ってーーー』
『あ''ぁ''!?』
『・・・わ、分かったよ。だから包丁をこっちに向けんな、なっ?』
声の一方が遠ざかっていき、再び調理の音が始まっていく。乱雑な包丁の音色に合わせるかのようにユミルは忍び寄っていく。男が俎板に包丁を置いて棚から何か取ろうと屈んだ。その瞬間を逃さず、ユミルは包丁を奪い取りながら左腕で男を羽交い絞めにする。
「動くなよ。動いたら頸を掻っ切ってやるからな」
「な、なんだてめぇ・・・どっから出てきてーーー」
男の頸にさっと頸元に刃を置く。頚動脈の真上に煌く銀光に男の粗野な風体が硬直し、視線がそれ一点に集中された。男の無骨な手は棚に突っ込まれたまま、羊の蹄を握って動けない。
「動くなと言ったよな?こちらの質問に答えろ」
「な、なんだよ?」
「俺は今、金髪の少年を探している。頬の辺りに黒子がついている、碧眼の少年だ。名をリコという」
「・・・し、しらねぇな」
「・・・そうか」
ユミルの左手が男の耳を掴み、強引にそれを千切ろうとする。男は苦悶の絶叫を漏らした。
「っっぁあああっ!!」
「思い出したか?」
「お、思い出したぁっ!!そいつは牢屋にぶちこんでるっ!!棟梁が明日食
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