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王道を走れば:幻想にて
第四章、その3の1:誰の油断か
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眉を顰めるのは、ユミルのみならず、慧卓も同様であった。口も憚る話題を平気に口に出すのは、気分を慰めるためとはいえ、今言ってはならぬのだと感じたのだ。背後から兵士が一人、険しい面持ちで駆け寄ってくる。

「捜索、終わりました」
「どうでした、村の様子は?」
「・・・生存者が居ました。但し一人だけで、しかも非常に衰弱した状態にあります。話を窺えるような状態ではありません。・・・我等には、その方に手の施しようがありません。
 此処はエルフ自治領内ですので、エルフ側に救援を呼んではいるのですが・・・恐らく彼らが来る頃には・・・」
「・・・亡くなると、いうわけですね」
「残念ながら、そうでしょうね。・・・一つだけ気掛かりとするならば」
「なんです?」
「その人、ずっと人の名前を呟いているんです。リコさん、リコさんと」
「・・・リコ?それ、この村に住んでいる人の名前か?」
「多分、そうなんでしょうが・・・」
「・・・それ、弟の名前です」
「え?」

 傍によって来たリタの表情に、慧卓は顔を一層引き締める。今まで見た事が無いくらいに動揺して、且つ真剣な顔付きであった。

「私の弟です。リコと言うんです」
「確か地図の製作を生業としている方、でしたよね?」
「はい。まさかここまで足を伸ばしているとは思いもよりませんでした。・・・仮にあの子が此処に住んでいたのだとしたら、放っておけません。その方に会わせていただいても宜しいでしょうか?」
「ま、まぁ禁止されているわけではありませんから大丈夫ですけど・・・本気ですか?」
「・・・はい」

 迷い無く首肯した彼女を見遣り、慧卓は俄かに困惑した様子で年上の兵士を見遣った。兵士は両者の瞳を何度か見比べつつ、一抹の諦めのようなものを抱いて折れた。

「・・・・・・分かりました、此方です」

 踵を返した兵士を追って二人は歩いていく。村の中央近くに張られた、小さな天幕に案内される。入り口は清潔な布で隠されており、人目にはつかないようだ。

「どうか、穏便に御願いします。末期を迎えるまで、せめて彼女には優しくしてあげたいですから」
「承知しております。・・・御案内有難う御座います」
「・・・頼みますね、ケイタク殿」
「はい」

 念を押すように兵士は言い、目を離す。勇んで入っていくリタの後に続いて慧卓も幕を潜り、そして彼女と同じように息を呑んだ。

「っ・・・」

 一人の女性が急ごしらえの寝台に横たわっている。暴行による痣が頬と目元に青々と膨らんでおり、欠けている歯が口元から覗いている。毛布を掛けられてはいるのだが、それでもそれ越しに痩せ細った身体付きが分かってしまう。傍らには唇を潤すために水皿と、柔らかな布が置かれているようだった。彼女は濡れた唇で只管に呟いてい
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