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王道を走れば:幻想にて
第四章、その3の1:誰の油断か
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・・これは男か?頭蓋骨が角ばっているな・・・。この様子では、まともな生存者を期待するだけ無駄かも知れんな)

 一人思案していると、慧卓がゆっくりと近付いていく。骸の臭いに当てられてか、ベルが興奮して鼻息を荒くさせて慧卓を揺らす。

「・・・ベル、気持ちはわかるけど、ゆっくりな。・・・ユミルさん、どうです?・・・ユミルさん?」

 彼の返事に答えず、ユミルは地面を見詰めたまま動かない。幾秒の後にちらりと横目を向けた表情は、死体に向かった時以上に張り詰めたものである。村の一方へ鋭い視線を向けると、ユミルは慧卓に向かって手でジェスチャーを行う。慧卓を指差し、親指と他の指で口のように何度かぱくぱくとさせて、村の一方を指差す。

(・・・俺、パクパク、あっち?・・・・・・あ、囮?)

 慧卓は意図を掴むと、馬首をその方角へと向けて徐に歩いていく。ユミルはそれを見詰めながら中腰に家の影へと歩いていき、気配を殺すように静かに、しかし足早に歩いていく。死体を観察していた時に、彼は側頭部の辺りに一つの視線を感じたのだ。この場の惨状に相応しき、剣呑な気であり、慧卓にも調停団の面子にも出せぬ代物である。
 案の定であった。二つの家影を通り過ぎて三軒目に差し掛かった時、その家壁に潜む気配を感じ取った。己を見詰めていたものと同じである。音を立てぬように剣を抜き払い、先程以上に慎重な足取りでそれに近付いていく。水面に波を立てぬかのようなゆったりとした体捌きであり、風の如く自然と調和したものであった。
 ユミルは壁面からそっと顔を出して、その気配の正体を暴いた。ひょろく野蛮な風体の男がそこに居て、手には弓矢を握り締めていた。男は崩れた壁に隠れながら、無防備に進む慧卓を見詰めて、息を呑んでそれを待ち構えているようであった。ユミルはゆっくりと、地面に転がる木片を潰さぬようにゆっくりと歩いていき、男の背後を取った。そして一気に、の口を掌で覆い、その頸に剣を突き付ける。

「ン''っっ!?!?」

 瞠目する男を他所にユミルは弦を引くかのように一気に剣を滑らせた。悲鳴が掻き消され、肌落つ鮮血と共に男はぐらっと崩れ落ちた。闊歩していた慧卓はふと立ち止まって、その音の方角を見遣った。瞬間、彼の背後の廃墟から一人の男が現れる。男は手に持っている弓矢を素早く構えた。

「ケイタク、後ろだっ!!!」
「っ!?」

 咄嗟に振り向いた慧卓の肩口を、放たれた一矢が掠める。男が舌打ちと共に第二矢を構えようとしていると、いきり立ったベルが前足を高々と上げて嘶き、男に向かって疾走していく。慧卓の制御から開放されているようであった。

「ちょちょちょっ、ベル待てぇぇ!!」
「えええっ!?」

 目をひん剥いた男はすぐさま矢を放つも、ベルの体躯を掠めて浅い傷をつける
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