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王道を走れば:幻想にて
第四章、その3の1:誰の油断か
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 兵の意見を封殺して、慧卓は彼を促して踵を返した。兵の馬が足早にユミル達の馬車に向かい、慧卓が先頭の馬車を止める。馬車の行軍が止まり、馬車の内からユミルが駆け出してきた。

「ベル、ちょっときつくなるけど、頑張ってくれよ?」

 これからの更なる労を耐えるよう発破を掛けると、軽い嘶きによって返された。ユミルが近付いてきたのを見て、慧卓は自分の背中を見せた。

「ユミルさん、俺の後ろに乗って下さい。あの煙の下へ向かいます」
「・・・危険かも知れんぞ。分かっているよな?」
「言うに及ばずです」

 ユミルは納得の色を浮かべなかったが、言葉の裏に潜んだ否応を認めぬ態度を理解すると、慧卓の後ろに飛び乗った。片腕で慧卓の腰を持ち、もう片方の手は腰に吊るした剣の柄に当てられている。
 ベルが鼻息を漏らして足を進め、徐々に足早となっていきながら、慧卓らはその場所へと向かっていく。先頭の馬車の窓からキーラが心配げにそれを見遣っていた。

「大丈夫でしょうか?」
「心配するな。私が直々に鍛えたんだ、ちょっとやそっとの事で怯むようにはしておらん」

 アリッサは言葉では力強く言うものの、瞳は全く油断していない。寧ろ先を行く慧卓の背を一縷の不信で以て見詰めていた。彼の武力に対する評価がそのような目つきをさせる大きな要因であった。
 煙の下に近付くにつれて、ユミルは段々と瞳を細めていった。鼻を突く異臭は鋭敏な感覚を刺激して、惨たらしい想像を強要させてくる。

「・・・匂うな。血の匂いだ」
「・・・・・・パウリナさん、大丈夫ですかね?」
「駄目だろうな、絶対吐くだろう」
「ですよね・・・」
「お前も吐くなよ?」

 その問いには返さず、慧卓は徐々に明らかと成っていく光景に眉を顰めた。兵の説明通りに小さな村である。『セラム』に来て初めて訪れた村よりも尚小さい。その村の家屋は軒並み、何かしらの荒みを壁面や屋根に現しており、ものによっては壁が黒く煤けていた。煙は村の一角から立ち上っているようだ。

「此処で良い、止めろ」
「あ、はい」

 村の入り口でユミルは馬から降りて、剣に手を当てながら歩いていき、慧卓はそれにおずおずと付いていった。少し歩いた所の家屋の傍に、二人は一つの黒い物体を見受け、慧卓は口を俄かに開けて悲嘆の息を漏らす。全身を焦がされて一部真紅の部分を見せ付ける、焼死体であった。
 慧卓は馬上から周囲を見遣ってみるが、路上に転がる死体はその焼死体、一つしかない。あからさまに怪しい気がしてきたが、ユミルは臆する事無くそれに近付いていく。

「ちょ、危ないですって!!」
「黙っていろ」

 ユミルは死体に近付いて、軽く目礼をすると、それをじっくりと見遣って観察する。特にその頭部をじっくりと。

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