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王道を走れば:幻想にて
第四章、その3の1:誰の油断か
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はほんの小さな傾斜を抱いており、慧卓らは正確に言えば登っている状態であった。
 ひゅぅと、不意に吹いてきた風に目を瞑り、その寒さに驚く。季節は夏だというのに、秋の中頃を感じさせる冷たさであった。風はその後も吹き止まず、御者の手を冷たくさせて、馬車の窓を開けていたパウリナの肌を驚かせた。同室のユミルも俄かに眉を顰めている。

「ひぃ・・・涼しいなぁ・・・」
「・・・というよりも寒いというべきじゃないか?流石北嶺だ。まだ入り口に入ったばかりで、しかも夏の最中だというのにこの寒さとは」
「エルフって凄いですよね。こんな寒い天気に年がら年中付き合うんだから。よっぽど寒さに順応した体質なのかな」
「いや、あいつらとて人だ。秋になればそれ相応の厚着を着るぞ?冬などは熊のようになる」
「・・・露出とかしていないんですか?」
「そんなにショックを受けるのか?」

 室内に置いてあった箱を開けて、ユミルは毛皮の服を取り出して着る。これだけで寒さはかなり防げるだろう。露出好みのパウリナも耐えかねたのか服をぱっと掴んで羽織る。彼女が見遣る窓の外では、徐々に荒涼とし始めた風景が映し出されていた。
 行進を始めてから二時間ほど経って尻に充分に痛みを感じた頃、漸く、先までは影にしか見えなかった森の全体が見えてきた。北方らしい針葉樹林であり、生い茂って葉が暗い影を落としていた。
 
「あー、ケイタク殿。この森の横を通るわけですが」
「はい」
「エルフ自治領ですよ、あそこから」
「まじで」
「イエァ」

 兵が指差すその場所には、場違いなまでに、大きな岩がぽつんと置かれていた。成程、標識代わりにはうってつけである。慧卓はふと森の闇を見遣り、冗談めかしく言う。

「・・・・・・待ち伏せされてそうだね、なんか立地的に」
「いやいやいや、まさかそんな訳ないでしょう?こっち王国の旗掲げているんですよ?」
「まぁ、そうですよねー。ただの冗談ですよ。・・・ところで、なんであそこ煙上がっているんですか?」
「は?」

 あっけらかんと指差す方向に、兵は間抜けな声を漏らして表情を硬直させる。森を挟み、丁度街道沿いに進んだ所の一角から、灰色の薄い煙が立ち上っており、背景の曇り空と似た彩色に関わらず、一切の調和が見受けられない。火が立たぬ限り不自然な光景である。

「・・・煙が立ち上がっている場所、確かあそこには村がありましたね。小さな村なんですが」
「・・・自治領の首都まで後何日の予定ですか?」
「五日です」
「場合によっては一週間になりますけど、いいですね?」
「・・・アリッサ殿も承知してくれるでしょう」
「ユミルさんを呼んで下さい。俺と一緒に先行します」
「き、危険なのでは?」
「まだ危険があるとは断言できませんから、大丈夫でしょう」
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