第四章、その2の3:疑わしきそれ
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先されるべきなのだ」
「・・・道の舗装と地形の調査、獣の討伐に優先して資金を当てよう」
「それで良い。浮いた金は貴方の自由に任せるよ」
「そうか。ではこれで失礼する」
金貨をテーブルに戻しながらイルは通路の方へと消えていく。一室に残されたチェスターは、軽い笑みを浮かべてアダンに言う。
「感謝するぞ、アダン殿。貴方が居なければ教会の金庫からあれだけの大金をせしめるなど出来なかった」
「まぁ、それが本業だからな」
当然とばかりに気取らぬ態度で答え、アダンは再び本を開く。女が針山に突き落とされる絵図である。それは二度見て始めてその繊細な表情が理解できるものであった。女の悲嘆に暮れた顔と、赤い瞳の柔らかな色合いが。周囲に描かれた地獄絵図と比較して、その二つだけが浮ついているように見える。
(・・・わかんねぇなぁ、絵画なんてよ)
アダンは本をぱんと閉じて、本棚に仕舞う。淡い紫の帯は埃を巻き込みながら隣の本へと倒れ掛かり、身体を斜めにしたまま微動だにしなくなった。そして二つの足音が遠ざかって行き、篝火の炎がぼぉっと消え、書庫に再び暗闇が訪れた。
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