第四章、その2の3:疑わしきそれ
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淡い期待を抱きつつ、慧卓は固い床に就く。
だが一度ある事は二度あるというのが世の理である。翌日、再び慧卓はアリッサの部屋を訪れる。
「すんません、今日もいいですか?」
「床」
「はい」
慧卓は二日連続、硬い寝台に身を伏せる結果となった。流石に二夜連続してアリッサに質問を浴びせるような真似はしなかったが、毛布の薫りを嗅ごうとする真似は止められず、物理的な衝撃によって沈黙する羽目となったのであった。
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ぼぉっと、松明に明かりが燈る。闇に浮かぶ蛍のように次々と光が現れ、一本の細い石の通路を明るくさせて、一人の老人の容貌を現した。蛇の如く鋭い紅の視線を持ち、耳は俄かに尖り気味であった。
猜疑心に細められた瞳は松明から松明へと移ろう。明かりに照らされて、普通のものには着る資格のない、派手な装飾に彩られたロープがゆらゆらと揺れた。老人のその皺くちゃの手には、先端が鋭利に尖れた杖を携えられていた。老人は歩きながら杖を掲げて、その先から炎を出して壁に掛かる松明に光を与えていく。
やがて通路の最奥に辿り着くと、老人は正面に広がる石壁を見遣り、一つのタイルを掌で強く押す。ぎぎ、という音を出してタイルが壁に沈み込み、小さく揺れながら壁全体が上へと滑った。そして開かれたその空間には、二人の若い男が立っていた。
「・・・人払いは済ましてくれたかな、イル殿?」
「うむ。君と、そこのドワーフ以外は皆居ない。安心して探すといい」
老人はそう言うと、さっと踵を返して元の道を戻っていく。彼の後に従って若人二人、即ち、チェスターとアダンは静かに、それぞれ中がぎゅうぎゅう詰めとなった重たい袋を手に歩いていく。口を全く叩かずに三者は歩き続る。
やがて三者は一つの光を正面に捉え、その中へと入り込む。篝火に照らされる一方で陰鬱さを残した、古びれて埃が舞う、小さな書庫である。書棚やテーブルには巻物や本が無造作に置かれ、白い埃を被っていた。最近書き下ろされたであろう真新しいものや、かろうじて帯の色の見分けがつく程度のものまで、様々である。
二つの袋が床にどさっと落ちて、埃が煙のように舞う。チェスターは眉を顰めて、一方の棚を睨んだ。
「アダン殿、君はそっちの棚を頼む。適当なものをテーブルに置いてくれ」
「おい、俺は字が読めないぞ」
「なら・・・そうだな、帯が紫色のものだ。それと表紙かページに、義眼を填めた老人の絵が載っているものも、全てだ」
「わかった」
アダンは足早に棚に向かい、がさつに埃を払いながら本を選別していく。チェスターはテーブルの埃を息で払い除けて、余計な本や巻物を床に丁寧に置いて行く。そして空いた所に次々とアダンが選び抜いたものが乱雑に置かれ、再び埃
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