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王道を走れば:幻想にて
第四章、その2の3:疑わしきそれ
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・よければ、幼い頃の話を聞かせてもらってもいいですか?」
「・・・すまん、今はそういう気分にはなれん。とはいえ、機会があれば話してやるつもりだ」
「・・・そうですか。・・・俺こそすいませんでした、分かったような口を利いてしまって。これ、全部受け売りなんです」
「そうか。誰のだ?」
「・・・俺の学校の教師です」
「いい人だな、その人は。その人の教えは大切にしろよ」

 アリッサはそう言うと瞼をすっと開いて、吸い込まれるような翠色の瞳を慧卓に向けた。

「話相手になってくれて感謝するぞ、ケイタク殿」
「お、俺、礼を言われるような事なんてしてませんよ?」
「気分だよ、気分。言いたくなったから言っただけだ。それに、精進がまだまだ足りないと改めて思っただけだ。・・・私は小さい頃から騎士なんだ。皆の前に立って、誰よりも先に剣を振るい、誰よりも勇敢にあるべき存在だ。過去の古傷に一々動揺するべき者ではない。なぁ、ケイタク殿?」
「・・・そうですね。その方が皆が安心するかもしれません」
「そうだろう?だから私は怯まないさ。エルフなど・・・ふん、畏るるに足らん奴等さ。我等の任務はきっと上手くいくぞ、ケイタク殿」

 アリッサは自信げにそう言って胸中に一つの熱意を抱く。過去の古傷、宿敵の古巣何するものぞというものである。それを慧卓は浮かぬ表情で見遣る。彼の理想としては、アリッサに心地良い思いを抱かせながら彼女の過去のトラウマを消滅させるつもりであったのだ。此度の来訪がそれが主要因とも言える。
 結果として彼女は思い出深き北嶺への来訪に、一層の気概を見せる事となった。それは喜ばしいともいえる。だが一方で一つの懸念を覚えるものでもあった。彼女の不敵な態度には一縷の油断のようなものが感じられなくもないのだ。過去の古傷を気にしてないように振る舞い、膨らみつつある艱難に正面にぶつかる。それによってどのような未来が生じるのか、それが果たして正と負、どちらの方向に傾いたものとなるのか。慧卓には全く予想のつかない事であり、現役の近衛騎士とは対照的な思いを抱かせる結果となった。
 アリッサは欠伸を噛み殺して言う。

「さてと、そろそろ就寝するとしようか。・・・ああ、ケイタク殿」
「あ、はい?」
「床で寝ろ。この寝台は私のものだ」
「・・・椅子も駄目?」
「駄目だ、床で寝てくれ。毛布もやるから、こっちを向いて寝るなよ?」
「・・・これ、どういう趣向?」

 ばさっと投げられる毛布を掴んで、慧卓は座り心地の良さそうな場所を探し、窓辺に背中を付けて座り込んだ。毛布に残る温かみに甘い香りがついてないかと鼻を埋めようとするも、部屋の主がジト目で睨んできそうな気配がしたために、慧卓は大人しく似非同衾の益に授かった。今宵限りで事が終わってくれたらいいなぁという
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