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王道を走れば:幻想にて
第四章、その2の3:疑わしきそれ
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口煽る。身体の熱を冷ます味であった。

「夜は嫌いですか、アリッサさん。あの日の思い出が夜に刻まれたから」
「・・・礼を逸した詮索だぞ」
「失礼しました。でも気になりましたから。今日のアリッサさんは、何時も以上に感傷的になっていて、ちょっと不安です」
「・・・どんな不安だ?」
「俺の貞操喪失を防いでくれないと困るという不安」
「まさかそんな理由で此処に来たのか!?馬鹿か貴方は!!」
「・・・だってさぁ、アリッサさん。俺の隣の部屋にジョゼとリタさんが居るんだけど・・・その、分かるでしょ?心身成熟した男女が一つ屋根の下で同衾したら」
「まさか」
「うん、おっぱじめやがった。防音仕様って聞きましたけど、あれ嘘だったんですね。音がちょっと聞こえてきたら、パウリナさんもちょっと色気のある顔しだして・・・ねぇ?」
「・・・・・・その、なんだ。此処に泊まっていくか?」
「すいません、今日はお願いします」

 慇懃に頭を垂れる慧卓の額には、心成しか苦心の汗が滲んでいるようにも見えて同情を誘う。一先ずの安心を得られたのか息を吐くと、とぼけたように彼は続ける。

「・・・ふぅ。何を話そうとしたんだっけ?」
「私の思い出について詮索しようとしたんだろっ?」
「そうでしたそうしでした。そんでですね、アリッサさん。俺がこんな事を言えた義理じゃありませんけど、あんまり気にしないほうがいいですよ」
「・・・聞いてやる、話せ」
「アリッサさんはですね、俺と似ているんです。生真面目で、規律というものを大事にする。昔に決めた事を絶対に曲げようとしない。うん、騎士として見習いたいくらいの誠実さです」
「そう言われる事もある」
「・・・でもこういう人って、一点だけどうしても直さなきゃならない特徴があるんですよ。一度経験した気持ちを何時までも持ち続け、時によってはそれを捻じ曲げてでも手放そうとしないっていう特徴が。前者の部分までなら大丈夫なのかもしれませんが、後者までいくと拙いですって」
「今の私がそうなっていると?」
「俺から見れば・・・いえ、寧ろ団の全員から見てもそうですね。アリッサさん自身はそういう事を考えたりはしないのですか?」

 言葉の軽さとは裏腹に真面目さを強く出した表情である。装っているのかもしれないが、アリッサは信用の置ける人物をそこまで疑るような人間ではない。相手の言葉を素直に捉えて、瞑想に耽るように目を閉じた。

「・・・どうなんだろうな。少なくとも意識はしていないつもりだった。だが貴方達にそうと見られてしまうとなれば、心の奥底ではずっと気に掛けているのかもしれんな。もしかしたら、あのエルフを倒す事が出来たかもしれないと。もしかしたら、今の自分はあの時のまま成長していないのかと」
「あの、過剰な詮索かもしれませんけど・・
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