第四章、その2の3:疑わしきそれ
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つつ続ける。
「まだ答えを聞いてないぞ、キーラ殿。・・・といっても、もう聞いたようなものなんだが」
「そ、そうですか?まだ語りたい気持ちがあるのですが」
「就寝前に甘いものを食べる破目になるとはな」
「・・・申し訳ありません。でも聞いてきたのはそちらじゃ・・・」
「・・・すまん」
再び両者は沈黙する。なんとなしに喋り辛い雰囲気が出来上がってしまい、且つ眠気は中々訪れない。ユミルは硬い頭をフル回転させて、何とかして話題の一つを零していく。
「不安は無いのか?エルフには」
「・・・本当、藪から棒ですね。・・・私は彼らに対しては、それほど不信感を抱いたりはしませんよ」
「・・・」
「人間と一緒ですから。種族こそ違いますけど、私達と同じように団結して、争って、奪い取る。だから大丈夫です」
「そ、それは大丈夫とは言わんぞ?」
「知ってます。でも、極度に信じないよりかはましですよ?そうなってしまっては、相手を滅ぼす以外の手段を取れませんから」
「・・・それは、そうだな」
垂れ目を細めて、ユミルは嘗て去来していた思いを想起し、鱗肌の友人の言葉を思い起こした。キーラはゆっくりとした口調で、たどたどしさを感じさせながら言う。
「人の良い所、悪い所を両方認める。個人同士でそれが出来るなら、その主体が大きな集団になっても出来る筈。組織同士であろうとも、民族同士であろうとも。今はそれだけで充分です。徒に不安を募らせるよりかは、それでいい」
「・・・俺も老いたもんだ。そんな柔な考えで良いなんて、もう思えなくなってしまった」
「では、ユミルさんもそれで通したら如何でしょうか?貴方は貴方なりにケイタクさんを守る。そして、仲間内だけでも協力し合って、無事に王都へ帰る。エルフは信用できなくても、私達やパウリナさんなら信じられるでしょう?」
「・・・出来るとも。・・・ああ、出来る。もう友を失うなど、絶対に認めんからな」
確かな口調で呟くユミルは、胸中にほんわかとした熱を感じた。それは決心の熱であろうか、己が紡いだ言葉をまるで鍛冶の如く精強なものへ変じさせる。その言葉が鎖となって足枷とならぬ事を祈るのが、理性から発された本心であろう。
ユミルは枕を直して頭を置き直す。キーラは窓辺を向いたまま身動ぎして、言った。
「・・・話し相手になってくれて、有難う御座います。お陰でちょっと眠たくなりました」
「俺もだ。では、明日に備えて寝るとしよう。お休み」
「はい、おやすみなさい」
先まで漂っていた俄かな緊張感は薄れ、気の許された空気が流れている。この調子であれば後数十分程で安眠に就けそうだと確信すると、ユミルは今度こそ沈黙を保って意識をクリアにする。寝る前は何も考えず、無に沈み込むのが彼の習慣であった。
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