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嫌いな猫が懐いてきたので
第三章

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「顔立ちも穏やかで肉付きもよくて」
「そうですか」
「ご家族全員で大事にされてるんですね」
「わしは何もしてないです」 
 父はここでこう言った。
「別に」
「そうですか?」
「女房と娘がしてます」
「その割にはこの娘貴方に懐いていますね」
「ニャーーー」
 見れば診察が終わったマルは籠の中から父を見ていた、獣医もその彼女を見てそのうえで言っているのだ。
「何もされていないんですか」
「はい、本当に」
「そうですか、ですがこの娘は」
「大事にされていてですか」
「貴方に懐かれていますね」
「そうなんですね」
「見てそう思いました」
 こう言うのだった、そして薬を貰って診察料と薬代を払ってだった。
 一家はマルを連れて家に戻った、その診察料と薬代もだった。
「お父さんが払ったの」
「それがどうした」
「お家のお金じゃなくて」
「たまたま持っていたからな」
 後部座席でマルを入れた籠を抱いている娘に返した。
「だからだ」
「そうなの」
「それだけだ」
「お家のお金出したのに」 
 助手席にいる母が言ってきた、三人共シートベルトを着けている。
「そうしたのに」
「たまたま持っていたからだ」
「それでなの」
「そうだ、それに家族だろ」 
 父は運転しながらこうも言った。
「だったらな」
「いいのね」
「そうだ気にすることはな」
 それはというのだ。
「本当にな」
「ないのね」
「そうだ、一緒に住んでいるからな」
「マルも家族なのね」
「家族なら当然だ」
「けれどあなた猫は」
「嫌いでも家族だ」
 このことは変わらないというのだ。
「だからだ」
「それでいいの」
「そうだ、ならだ」
 それならというのだ。
「これ位当然だ」
「そうなのね」
「だからいい、じゃあ家に帰ったらな」
 父はそれからのことも話した。
「薬飲ませてゆっくりさせるぞ」
「ええ、それじゃあね」
 妻も娘も彼の言葉に頷いた、そうしてだった。
 家に帰るとマルを籠から出して食事の後で薬を飲ませた、するとマルはぐっすりと寝て。
 暫く薬を飲むとくしゃみをしなくなった、そして薬を飲んでいる間もそれからも父の傍にいたがそれでもだった。
 父は何も言わなかった、だが次第に少しずつ彼女を見て声をかけ世話をする様になった。妻と娘はそんな父を見て笑顔になった。家族の笑顔はずっと続いた。


嫌いな猫が懐いてきたので   完


                  2020・10・22
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