第百七十六話 雪溶けと共にその十一
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「邪気暴虐の輩はな」
「断じますか」
「それがどれだけ優れた者でも」
「そうしますか」
「資質に関係なく」
「優れた資質はよきことに使うものだ」
英雄は鋭い声で述べた。
「例えどれだけ優れた者でも心が悪いとだ」
「害となる」
「暴政を行う力にする」
「だから断ざれますか」
「そうされますか」
「暴君はおおむね優れた資質を持っている」
殷の紂王にしてもそうである、中国の暴君の代名詞となっているこの人物は頭の切れも武勇も人間離れしていた。ただ己の欲望を制御出来ず残虐であったのだ。
「しかしだ」
「それでもですね」
「その心が悪い」
「それで、ですね」
「悪を為すのですね」
「だからだ」
それ故にというのだ。
「俺としてもだ」
「暴君は断じる」
「そして民を救う」
「そうされるのですね」
「若しいればな、これまでいないことは幸いだが」
今自分達がいる東の浮島にというのだ。
「いればそうする、酒や馳走を楽しむなら楽しめ」
「しかし民を害してはならない」
「そういうことですね」
「自分達が守るべき者達を」
「左様ですね」
「武士はその地と民を護るものだ」
それが務めだというのだ。
「だからだ」
「それ故に」
「民を害するな」
「そういうことですね」
「そういうことだ、俺も酒は好きだ」
英雄は自分のことも話した。
「そして特に女はな」
「お好きだと」
「そう言われますか」
「言わせてもらう、だが民を害することはだ」
このことはというのだ。
「しない、悪政も暴虐もな」
「それ故に暴虐の者を許さない」
「そうされますか」
「上様としては」
「いればな」
こう言ってだった、英雄は多くの国人達に春日山城を手に入れてからも降る様に使者を送った。するとだった。
さらに多くの者が降り越後は東も西もかなりの部分が戦わずして降った、だが降らない国人達もいて。
そちらには兵を送った、英雄は自ら兵を率いてある国人を降したが。
ここでだ、その国人は英雄に恐る恐る問うた。
「それがしの領地と命は助けて頂けるとのことですが」
「それがどうした」
「それで宜しいのですか」
「いいと言った」
これが英雄の返事だった。
「俺はな」
「左様ですか、では」
「何だ」
「それがしの妻や娘を」
「俺は確かに女が好きだ」
英雄は自分に恐る恐るのまま言う国人に答えた。
「だが人のものを奪う趣味はない」
「そうなのですか」
「そうした下衆な趣味は持ち合わせていない」
一切、そうした言葉だった。
「俺はな」
「では」
「そのことも安心しろ」
妻や娘のこともというのだ。
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