◇閑話・弐◇ 〜休暇大作戦〜
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近の窪地に溜まった湯は、確かに橙色に濁っている。
……と。
風が湯に手を伸ばし、掬った。
「ふ、風?」
「平気ですよー。そんな電波を感じたので」
相変わらず謎めいた返答をしながら、風は掬った湯の匂いを確かめている。
それどころか、今度は口に含んでしまった。
「少し、鉄の味がしますねー。でも、毒はなさそうですよ」
「……県令殿。どうやら、無害のようでござるな」
「そうですか」
安堵の表情を見せた後、
「では、湯を貯めましょう。このままでは、浸かれませんからな」
そう言って、手配りを始めた。
地面を掘り下げ、周囲を大きな石で囲い、底に砂利を敷き詰める工事が済んだ。
随分手際が良い、と思ったら、用水工事の職人が指揮を執ったらしい。
浴槽の上には簡素な屋根がかけられ、雨に濡れずに湯に入れる工夫までされていた。
無論、湯の周囲は人の背丈よりも高い塀が巡らされ、外から覗かれないようになっている。
「……なあ、星。些か、やり過ぎではないか?」
「うむ。だが、此度の主旨は主に疲れを癒やして戴く事だ。問題あるまい」
「それにしても見事に濁ってますねー」
と、風が私を見て何やらにやついている。
「な、何だ?」
「お兄さんと一緒に入っても、裸が見える心配はないのですよ。良かったですね、愛紗ちゃん」
「な、な……」
「おや、愛紗は裸体を晒す方が好みであったか?」
「そ、そういう問題ではない!……そ、そのようなはしたない事、ご主人様がお許しになるまい」
自分でも、顔が赤くなるのがわかる。
「ですかねー? お兄さんは寛容ですし、お願いすれば拒まないと思うのですよ」
「うむ。愛紗は気が進まぬようだが、私は主に願うとしよう」
「ま、待て! だ、誰が望まぬと……」
「はっはっは、愛紗。人間、素直が一番だぞ?」
「貴様が言うな!」
全く、二人とも人をからかってばかりだ。
……ご主人様と、共に湯……願わない訳がないではないか。
◇視点:歳三◇
件の邑に着くと、どうした事か、星らが待ち構えていた。
……そして。
「なかなか、いい湯加減ではありませんか?」
「ああ。手足の冷えが、すっと抜けていくようだぞ」
「それに、湯浴みしながらの一杯。堪えられませぬな」
「星。お前は何処でも酒があれば良いのだろう?」
「愛紗ちゃん、野暮は言いっこなしですよ?」
……何故か、全員と湯に浸かる事になってしまった。
聞けば、最初から皆、これが目的であったようだ。
「こうでもしないと、歳三殿は休んでいただけませぬからな」
「しかし、橙色の湯とは初めて見ました。歳三様、これはどのような湯なのですか?」
「うむ。恐らくは、含鉄泉であろう。鉄分が含まれている故、地上に出て空気に触れると
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