◇閑話・壱◇ 〜晋陽での一日〜
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いうのに、閃嘩の顔は、晴れ晴れとしていた。
昼になった。
約束の刻限に、二人連れが姿を見せる。
「歳三様」
「お兄さん、稟ちゃんも連れてきましたよー」
「ご苦労。そこに座ると良い」
そして、私は茹で上げたそれを、笊に入れて水を切る。
丼に盛りつけ、醤を振りかけた。
その上に、刻んだ葱と、おろし生姜を加える。
「歳三様、これは?」
「うむ。小麦を粉にし、水を加えて練り上げ、伸ばしたものを細長く切ったものだ。饂飩という」
諸国での修行中に、戯れに習った饂飩打ち。
このようなところで使う事になるとは、よもや思わなんだが……。
「饂飩ですかー。ではでは、いただきますね」
風は興味津々に、稟は恐る恐る、箸を取った。
「おおー、これは。とてもコシがあるのですよ」
「美味しいです。このような物、初めて食べました」
確かに、古代の唐土では饂飩はあり得まい。
……ただ、思いの外、この時代の食は豊かだ。
もっと粗食の世界を思い描いていたのだが、な。
「生醤油があれば良かったのだが……。流石にないようだからな」
「生醤油、ですか?」
「うむ。大豆と小麦、塩を発酵させた液体でな。どのような食材にも向くのだが」
流石に、醤油の製法までは知らぬ。
「……済まんな、二人とも。私がもっと気を利かせるべきであった」
「……歳三様。そのお気持ちだけで、十分ですよ」
稟が、にっこりと微笑む。
「稟ちゃん、なら風は、お兄さんに添い寝をお願いしちゃいますよー?」
「ふ、風!」
「はは。ならば、共に昼寝をしようぞ。三人でな」
「……はい、歳三様」
「おやおや、稟ちゃんが嬉しそうですよ。お兄さんにかかれば、みんな形無しですねー」
翌日、饂飩の事が皆に知られてしまい、全員分を打つ羽目になったのだが……まぁ、それも良かろう。
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