一話
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流石に腹が減ったので、食料を買いに街まで出ることにした。
フラフラと食堂の前を通りかかると、艦娘達の楽しそうな声が聞こえてくる。
はあっと深いため息を吐き、俺は再び街へ向かって歩き出した。
パックのご飯、生卵、ネギを買い、お粥を作ろうとしたが最も重要なことに気づいてしまった。
この執務室には鍋もガスコンロもないのだ。
俺はガックリと肩を落とし、皆が寝静まる時間をベッドの中で待つことにした。
『ゴホッ…ゲホッ…』
自分の咳の音で目を覚ます。
どうやらいつの間にか眠っていたようで、時計を見ると深夜の一時を回っていた。
重い体を起こすと、パサリと額から濡れたタオルが落ちる。
違和感を感じ、真っ暗になった部屋に電気をつけると、俺のベッドに突っ伏し、静かに寝息を立てる鳳翔の姿が目に入った。
誰も俺のことなんて気にかけてくれないと思っていた。
看病してくれる人がいるなんて、考えもしなかった。
嬉しさと、有り難さで涙が溢れそうになるのを堪え、隣で眠る鳳翔の頭をそっと優しく撫でる。
『ありがとう…ございます…』
『んっ……』
目を覚まし、寝ぼけた顔でこちらを見上げた鳳翔に、少し気まずさを覚えすぐに手を離した。
『…具合はどうですか?』
『鳳翔さんのおかげで…だいぶ楽になりました』
目を合わせずに言った俺に、『そうですか』と言い、鳳翔は執務室を出て行った。
その瞬間、緊張の糸が切れたように「ぐぅぅ〜」と情けなく腹が音を立てる。
『もう二日も、何も食べてないもんな』
もう全員寝ているだろうし、食堂を借りてお粥を作ろう。
そう思い立ち上がろうとした時、控えめなノックの音がした。
どうぞ、と言う前に扉が開かれる。
『どこへ行く気ですか?まだ安静にしてないといけませんよ』
お粥と水を乗せたお盆を片手に鳳翔は言った。
その声は優しくて、それだけで風邪なんて治ってしまいそうなくらいに温かい。
『どうして鳳翔さんは…俺に優しくしてくれるんですか?』
『そうですね…』
口元に人差し指を当て、少し首を傾げて可愛らしい表情を作った鳳翔は、優しい声色で言う。
『瞳を見れば、分かりますから』
『目?』
『あの娘達は、今はまだ見えていないだけなんです…。だからどうか』
その場に正座する鳳翔。
そして
『あの娘達の御無礼を、どうか許してあげてください』
手をついて、床に頭をつける。
『ちょっ、やめてください鳳翔さん! 俺は全然怒ってませんから!』
慌てて両肩を掴み、鳳翔の上半身を起こす。
互いの息遣いが聞こえるくらいに至近距離で、
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