暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン34 退路なきエンターテイメント
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差し込んだ1本のスポットライトによる光の柱がはっきりと見えたからだ。
 そして自分が踏みつけたのがそのスイッチだったと理解するより先に、糸巻の目はその光が差す先に吸い寄せられていた。斜めに差し込む光の柱の下、糸巻の位置より高い壇上にぽつりと置かれた机に、1人の男が座っている。ボロボロの薄汚れた包帯の、若い男……半ば覚悟していたからだろうか、不思議とその顔を見ても糸巻は驚かなかった。
 だからただ、その名のみを口にする。

「鳥居、浄瑠」
「遅かったっすね、糸巻さん?待ちくたびれましたよ」

 そこにいたのは、鳥居浄瑠。しかし糸巻にとってはやや意外なことに、以前の取り付く島もない様子は影を潜めている。むしろ今の鳥居は、その恰好を除けば行方不明になる前と何ら変わらないようにさえ彼女の目には見えた。
 そして鳥居の方もそんな表情を読み取ったのか、やはりいつもの調子を保ったままで苦笑する。

「ま、確かに怒ってましたけどね。今はもう、そういうところはとっくに通り過ぎてるんすよ」
「そうかいそうかい、アタシは今忙しいんだ。自分語りなら他所でやってくれ」
「ねえ、糸巻さん。俺、糸巻さんはああいうことしない人だって、割と本気で信じてたんすよ」
「……聞いちゃいねえ」

 小さく毒づくが、もう一度その言葉を遮ろうとはしなかった。思えば、彼女がこうして鳥居の心の内をまともに聞くのはこれが初めてかもしれなかった。

「ああいうってのはあれですよ、つまり巴さんと、大義名分があったとはいえ手を組むなんて真似ってことです。俺としちゃ糸巻さんに限ってそんなこと、って思ってたんすけどね」

 むすっとしたまま、糸巻は答えない。ああしなければ、デュエルフェスティバルにテロ行為をぶつけられる可能性は極めて高かった。あそこで利害の一致した巴と糸巻が手を組んだからこそあの程度の被害で済んだことは、否定する余地がない厳正たる事実だ。
 しかし、彼女はそんな言い訳をうだうだと並べるような女ではない。悪魔の誘いをそれと知りつつ乗ったのは紛れもない糸巻自身であり、当然そのリスクもある程度までは想定済みだ。

「デュエルポリス。まあ世界規模の組織である以上、どうしたってある程度の腐敗は避けられない。そりゃあまあ、俺だってもうガキじゃないわけっすからね、わかってんですよ。でも糸巻さんだけは、そこに手を染めるような人じゃないって思ってました」
「それでアンタも……いや鳥居、お前アタシよりタチ悪いからな?兜建設の社長、当面入院生活だってよ」

 その言葉に、わずかに鳥居の表情が揺らぐ。すぐ元に戻ったものの、そのほんのわずかな揺らぎを見逃さなかった糸巻が密かにほっと息をつく。少なくとも傷むだけの良心は、彼の中にもまだ残っていることがわかったからだ。

「……あ
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