第三章
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「私が生まれてからずっと持っているもう一つの武器って」
「わからないならいいわ。けれどその武器でね」
「総一郎君との仲を進展させられるのね」
「切り札はね」
梨香子はこの話もした。
「二つあるからいけるわ」
「浴衣とそれね」
「そう、だから安心して相手の熱さに気をつけてね」
「やっていけばいいのね」
「夏祭りの決戦はそれでいけばいいわ」
八月四日のそれをだというのだ。
「富美加はクールニいくのよ」
「暑い中で熱い相手にクールに」
「そう、そういって」
こう言って富美加の背中を押して四日の夏祭りに向かわせるのだった、祭りの当日二人は駅前で町早稲た。まず梨香子はというと。
「梨香子も浴衣にしたのね」
「私もデートがあるから」
実は彼女も相手がいるのだ。
「それでね」
「浴衣にしたのね」
黒地に白い百合の柄の浴衣だ。帯は白だ。
その黒と白のコントラストの中でこう富美加に対して言うのだ。
「そうなの。どうかしら」
「よく似合ってるわ。夏で黒は暑いかなって思うけれど」
「私黒が好きだからね」
そこは好みの問題だった。
「これにしたけれど」
「それでなのね」
「夕方、夜で陽射しもあれだし」
暑さの元であるそれについてもだというのだ。
「だから黒にしたの」
「そういうことね」
「富美加はそれね」
「うん、去年に買ったのだけれど」
富美加の浴衣は青地に薄い赤の蝶だ。青い空に蝶々が舞っている様に見える、彼女の帯は青いものである。
「どうかな」
「いいわ。富美加は青似合うのね」
「そう?似合う?」
「ええ、似合うわ」
梨香子はにこりとして富美加に答える。
「かなりね」
「それじゃあね」
「ええ、その浴衣なら総一郎君も絶対にスイッチが入るから」
「安心していいのね」
「夏は浴衣よ」
梨香子は言い切った。
「水着もあるけれどね」
「やっぱり浴衣なのね」
「そう、それにやっぱり富美加自身ね」
「私もなのね」
「自然体でいけばいいから」
富美加のその貌を見ての言葉だ。
「本当にね」
「私のそのままで」
「そうよ。ありのままでいいのよ」
「別に気を張ったりしなくていいの」
「富美加の場合気を張ったらかえって駄目ね」
空回りしやすい性格でもあるのだ。梨香子はこのこともよくわかっていた。
「だからあくまで自然体よ」
「それでいけばいいのね」
「そう、ただし自分は熱くならずにクールでね」
このことを言うことも忘れない。
「そうしてね」
「わかったわ。クールな自然体ね」
「それでいけばいいわよ」
こう富美加に言う。そうしてだった。
梨香子は自分の相手との夏のデートに向かった。富美加はその整った後ろ姿を見送る、履き物の音が妙にリズムカ
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