ターン33 過去からの迷いし刺客
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「いえーい、とうちゃーく。ご苦労様ガメシエル、ゆっくり休んでてね」
分厚く濃密な霧の壁にぐるりと囲まれた、3本の黒い鉄の塔ともいうべき異様な物体。その頂点は霧に遮られて塔がどこまで伸びているのかを見ることはできないが、ぼんやりと見えるシルエットから真ん中のひとつがやや短く、両端の2本がそれよりも高くほぼ同じサイズであることはわかる。そして絶え間なくあたりに響く、重く低い機械音。糸巻のようなデュエルポリスがそれを一目見れば、目の前にそびえ立つ鉄塔こそが巨大「BV」電波塔なる代物だとはすぐに理解できただろう。それも、わずかに短い中央の1本。両端にそびえる2本は当初の目的、異常出力を持つ試作品デュエルディスクの量産用の場所だろう。もしかしたら何か他の生産ラインがあって資金稼ぎに使われていたのかもしれないが、それはもはや関係のない話だ。
そんな海上プラントに、乗り込む巨大な影がひとつ。その影の上からより小さな影が飛び降りたかと思うと、巨大な方の影は嘘のようにその場で消えていった。
影の名は無論、遊野清明。つい先ほど脅迫まがいに聞き出した正規ルートからミスト・ウォームの吐く迷いの霧を抜けてきたこれでも御年23、外見年齢は永遠の14歳な少年である。
周りをきょろきょろと見まわし、途中で別れた糸巻のモーターボートを求めて視線が彷徨う。さすがに正規ルートを通ってきたこちらの方が早いかと納得しかけた瞬間、何かに反応してふと後ろを向く。波の音にかき消されるほどにかすかなエンジン音が、やがて次第に大きくはっきりとしたものに。
「こっちこっちー、でも思ったより早かったね、糸巻さん」
「おーう。それでもずいぶん苦労したけどな、もう燃料も半分切っちまった。悪いな、わざわざ待ってて……っと」
手を振って誘導する清明と、それに気づき船首をそちらに向ける糸巻。エンジンを切ったモーターボートからひょいと飛び降り、そこでふと何かに気づいたように、ジト目ですっと距離をとる。
「え、何、なに」
「あんまりアタシもこういうこと疑いたくはないんだがな、最初にこれだけは聞かせてもらう。アンタ、本当に遊野清明なんだろうな」
「あー、そこから……?」
うんざりしたように首を振る清明に対し、糸巻の目はいたって真剣だ。敵地のど真ん前で行うにしてはあまりにも緊張感のない会話ではあるが、その重要性は彼とて理解できる。なにせ「BV」の力はカードの組み合わせと同じく無限大であり、ここにいるのが清明の姿をコピーした偽物であるという可能性は決して笑い飛ばせるほどに小さくはない。
ただそもそもの問題として、自分から誘っておいてその言い草はあんまりではないかとちゃらんぽらんな清明なりにそれなりに不満は覚えるのだが。
「悪いな。正直アタシもこの10年以上ずっと単独行動
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