第百六話 八万の大軍その八
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「殿は何処」
「何処におられる」
「お姿が見える」
「一体何処におられる」
「本陣が攻め破られた」
「それでわからぬ様になっておるが」
何がどうかだ。
「一体何処じゃ」
「殿がおられなくして当家はどうなる」
「殿に跡継ぎはおられぬ」
「これといった身内の方もおられぬ」
「殿がおらずして扇谷上杉家はないのじゃ」
家が成り立たないというのだ。
「殿をお探ししろ」
「そして何としてもお助けせよ」
「何とかな」
家臣達が必死に探すが朝定の姿は見えずだった。彼等はその間に同士討ちや北条家の者達によって命を失い。
朝になった時戦場に多くの兵が倒れていた、その殆どは両上杉を主にした関東諸侯の兵達であった。
その彼等を朝日の中で見てだ、氏康は言った。
「勝ったな」
「はい、間違いなく」
「我等の勝ちです」
幻庵と綱成が応えた。
「そうなりましたな」
「これは」
「敵は散り散りに逃げた」
そうなったというのだ。
「まさに」
「ですな、八万の兵がです」
「まさに雲散霧消しました」
「我等の夜襲によって」
「そうなりました」
「我等の勝ちの証じゃ」
このことこそがとだ、氏康は家臣達にも話した。
「これはな」
「倒した敵はどれだけか」
「それはこれから調べますが」
「かなり多いですな」
「この有様ですと」
「そうであるな、ではこれより首実検ならぬ耳実験じゃ」
こう言って勝鬨を挙げさせてだった、氏康は実際に耳実験を行った。その結果三千の兵を討ち取っており。
しかもだ、思いも寄らぬ報もあった。
「ほう、扇谷上杉家のか」
「主殿ですが」
「戦の中で命を落とされた様です」
「ご遺体はわかりませぬが」
「どうやら」
「そうか、あの御仁がおられぬとな」
どうなるかとだ、彼は話した。
「あの家はな」
「もう断絶ですな」
「跡継ぎの方がおられませぬし」
「しかもです」
「これといった身内もおられませぬし」
「これでじゃ」
まさにというのだ。
「扇谷上杉家は終わりか、ならな」
「はい、我等は敵が一つなくなり」
「そしてです」
「武蔵もです」
「完全に我等のものとなりますな」
「そうなる」
こう言うのだった。
「これはな」
「これで我等の敵は山内上杉家のみ」
「そうなりましたな」
「では上野に兵を進め」
「そうしてですな」
「あの国もですな」
「手中に収める、しかし今はな」
氏康はさらに話した。
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