第二章 勇美と依姫の幻想郷奮闘記
第64話 噂のあの子との邂逅
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『家族』……。その言葉を依姫から再び聞けて勇美は心が満たされる気持ちとなるのだった。だから、彼女は満面の笑みを讃えて、
「はい!」
と歯切れのよい返事をするのだった。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ行くわね」
そう言って豊姫は勇美と依姫を自分の能力の圏内に捉える。──そして、後は一瞬であった。
瞬きをする程の一瞬の間を置いて、三人はいとも簡単に月の地を踏みしめていたのだった。
最初、勇美はそれを実感出来なかった。何故なら目の前の景色の変化が目に見えてはっきりしたものではなかったからである。
「……私達、月に来たんですよね?」
だから勇美は、その事実の確認を豊姫にするのであった。それに豊姫はいともあっさりと答える。
「ええ、間違いないわ」
そう彼女が答えるのだからその通りなのであろう。なので豊姫に言われた勇美は周りを舐めるように確認していくのであった。
──しかし、実感が沸かなかった。
まず、何と言っても空には青空が広がっているのだ。地球外に存在する場所、それも表向きは死の星である月に大気がある事が信じられなかったのだ。
他の所に目をやれば、辺りは桃の実が美味しそうに実っている林である所が目に付くのだ。木々が生い茂るなど、ここを本当に地球の外だとはにわかに信じられはしないのであった。
「あ……」
まるで地上と変わらない。そう勇美が結論付けようとした所で、彼女は気付いたようだ。
そう、地面の様子である。そこには落ち葉も腐葉土も存在しておらず、生命の営みが存在していないかのようであったのだった。
いや、それは『ようであった』ではない事が豊姫の口から証明される。
「勇美ちゃん、気付いたようね」
「はい。その、何て言えばいいのでしょう……」
勇美は適切な答えをどう出したものか、考えあぐねいでいた。何故なら目の前の二人はこの月に住む者達であり、彼女らはその事実を背負いながら生きているのだから。
そう思案する勇美に、豊姫は助け舟を出す事にする。
「迷わないで言っていいのよ。恐らく勇美ちゃんが思っている通り、『ここには生死の営みが存在しない』わ」
「やっぱり……」
図星を突かれて、勇美は思わずそう漏らしてしまった。
豊姫が指摘したように、勇美が気付いたように、ここ『月』には死という概念から隔離されているのだ。それこそが元地上の民だった月人達が地上に穢れが蔓延する前に月に移り住む事で手に入れた理想の浄土であるのだ。
その事により月人は寿命から逃れて悠久の時を満喫出来るようになった。
それは非常に合理的と言えよう。生きとし生ける者全ては誰も死にたくはないのだから。だから月人は生物として究極の理想を手に入れたといえるだろう。
だが、それにより月人は様々なものを拒絶する性質が身に付い
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