第四章
[8]前話
「よくわかりました」
「そうね。それじゃあね」
お姉さんは項垂れたままだがそれでもはっきりと言う小山内に述べた。
「そのことを忘れないでそのうえで」
「それで、ですね」
「リハビリ頑張りましょうね」
「わかりました。それでリハビリは」
「辛いわよ」
長い間動かさないので固まってしまった身体を動かすことは難しい。それはかなり辛いことなのだ。
「けれどそれでもね」
「僕は動けるんですね」
「後遺症はないから」
それは確かだった。
「けれどそれでもね」
「はい、忘れないです」
お姉さんが言いたいことはわかっていた。それでこう答えた。
「絶対に」
「そうしてね。それじゃあね」
「はい、それじゃあ」
小山内は頷いた。それからだった。
小山内は怪我が回復すると共にリハビリも受けた。それはお姉さんの言う通り確かに辛かった。苦しいものだった。
しかし言われた通り後遺症はなく無事退院できた。それからは。
もう何も言わなかった。怪我のことは。
それで周りにもこう言ったのだった。
「怪我しないに限るよ。それにね」
「それに?」
「それに。何だよ」
「うん、怪我をしたら凄く辛いということもね」
そのこともだというんだ。
「ちゃんとわからないとね」
「何か御前変わったな」
「怪我して入院してから」
「怪我してわかったのかよ」
「怪我したらどうなるのか」
「うん、わかったよ」
その通りだというのだ。彼もまた。
そしてだ。こうも言うのだった。
「怪我をしたらいけない、そして身体を悪くしている人がどれだけ辛いか」
「そのことをわかったんだな」
「入院から」
「そうなったよ」
そn通りだというのだった。彼は大人になりそうした人を助ける仕事に就いた。そうなったのも全て脚の怪我から車椅子に乗ったことからだった。全てはそこからはじまったのである。彼の人生が。
車椅子 完
2012・8・23
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