第九章
[8]前話
「実はな」
「そうでしたね」
「久し振りに戻るな、だが」
「玉砕ですから」
「俺は死んだと思われているな」
「戦死の公報も」
それもというのだ。
「やはり」
「届いているな」
「そうだと思います」
「そうだな、だが」
「それでもですね」
「俺は生きている」
死にたかった、その時のことを思うと歯噛みしてしまう。だがその感情を胸にして彼は共にいる彼にさらに言った。
「それならな」
「生きていることをですね」
「伝えなくてはならない」
「だからですね」
「俺は戻る」
こう言ってだった。
彼は船で日本に戻った、そうして数年振りに祖国の土を踏んだ。そのことは嬉しいことだと思ったが。
感慨を感じるよりも先に故郷に戻った、そうして家族の前に出ると。
家族は目を丸くさせて彼に問うた。
「えっ、まさか」
「幽霊じゃないのか?」
「死んだんじゃなかったのか」
「戦死したと」
「この通りだ、生きている」
船坂は驚く家族達に答えた。
「俺はな」
「しかし。その身なりは」
「ボロボロじゃないか」
「地獄にいた様だ」
「その身なりで言われても」
「それでも」
「足はある」
幽霊には足はないがというのだ。
「それならわかるな」
「本当に生きていたのか」
「もう墓もあるのに」
「それでもか」
「生きて帰ってきたか」
「どういう訳か。だが俺は確かに生きている」
毅然とした口調でこの言葉を出した。
「そして帰ってきた」
「不死身か」
「凄いな」
「信じられないことだ」
家族はまだ驚いていた、しかし船坂は確かに帰ってきた。そうしてだった。
実家の仏壇の位牌も取った、そのうえで彼は家族に詳しい話をした。そのうえで日本で再び生きはじめた。
船坂弘という人は実在している、想像を絶する話であるが全て真実だという。世の中恐るべき生命力と闘志、戦闘力を持つ人もいる。これもまた人間ということを考えると人間は実に恐ろしくかつ想像を絶する存在であると言えるであろうか。
不死身の男 完
2020・2・18
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ