第七章
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そのうえで彼等は指揮所のテントに集まっていたがそこにだった。
突然その男が出て来た、茂みから立ち上がったのは満身創痍ながらも右手に手榴弾を持ち左手に拳銃を持った船坂はそのまま司令部に突進してきた、そうして。
手榴弾の信管を叩こうとした、その彼を見てだった。アメリカ軍の将兵達は仰天して思わず絶叫した。
「あいつか!」
「あいつか出て来たのか!」
「馬鹿な、どうしてここに来た!」
「ここは陣地の最深部だぞ!」
「幾ら何でも来られるか!」
「あの恰好は何だ!」
船坂のその姿も見た、この時の彼は。
大小二十四の傷を負っていた、これまでの戦闘の結果だ。その傷がまたどれもかなりのものであった。
左大腿部裂傷
右上膊部貫通二ヶ所
頭部打撲
左腹部盲貫銃創
右肩捻挫
右足首脱臼
これが主な負傷であった、しかも。
長い間匍匐していて肘や足の服の部分は擦り切れ錬自治宇野火傷と二十ヶ所に食い込んだ砲弾の破片があった、文字通りの満身創痍であり死んでいないことが不思議であると言うしかない状況であった。
その彼が出て来たのでアメリカ軍の者達も仰天した、それでだった。
指揮官の一人が兵達に血相を変えて言った。
「撃て!すぐに撃て!」
「は、はい!」
「そうします!」
「今から!」
兵士達も応えた、彼等はすぐに船坂に銃口を向けてトリガーを引いた。そして信管を叩こうとした瞬間の左頸部を一発の銃弾が貫いた。
これで船坂は倒れて昏倒した、それを見てアメリカ軍の者達は言った。
「死んだか?」
「流石にそうだろう」
「というかどうしてここまで来た」
「それにあの身体でどうして生きている」
「信じられない奴だ」
「本当に人間か」
こう口々に言う、その中で軍医は彼を野戦病院に連れて行った。そのうえで病院にいる者達に対して話した。
「もう流石にな」
「助からないですね」
「どう考えても」
「ここまでの傷です」
「これまで生きているだけで異常です」
「信じられない生命力です」
「そうだ、しかしだ」
軍医はベッドに寝かせた彼を見つつ話した。
「これがハラキリだ」
「侍の自決ですね」
「日本の侍は恥を受けるより自ら死を選ぶといいますが」
「それですね」
「そうだ」
船坂の手から手榴弾と拳銃を指の一本一本を丁寧に解きほぐしながら話していった。
「日本の侍だけが出来る勇敢な死に方だ」
「全くですね」
「今この島で戦っている他の日本軍もそうですが」
「こいつは別格ですね」
「また特別ですね」
「特別強い侍ですね」
「そうだ、我々は恐ろしくかつ素晴らしい敵と戦っている」
軍医の言葉は感嘆そのものだった。
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