第五章
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一人刺した、これにはアメリカ軍の者達も血相を変えて彼等の言葉で驚いた。
「な、何だこいつは」
「怪我をしているのにまだ戦うのか」
「とんでもない奴がいるぞ」
「まだ戦うのか」
彼等も思わず怯んだ、しかもその彼等のうちの短機関銃を持っていた兵に。
船坂は銃を投げてその顎に銃剣を突き刺した、そうして彼等を退散させた。アメリカ軍の兵達は退散しつつ言った。
「日本軍に信じられない奴がいる」
「桁外れに強い奴がな」
「とんでもない奴がいるぞ」
「化けものだ」
「恐ろしい奴がいるぞ」
このことを上層部にも報告した、それでアメリカ軍全体にも伝わった。
「日本軍にとてつもなく強い奴がいるぞ」
「幾ら怪我をしても死なない奴がいる」
「しかも恐ろしい攻撃を加えてくる」
「信じられない猛者がいる」
こうした話が出ていた、そしてだった。
日本軍の方でもこう言った。
「不死身か」
「不死身の分隊長か」
「幾ら怪我をしても死なない」
「あくまで戦い続ける」
「しかもとんでもなく強い」
「鬼神の様な男だ」
こう船坂を評するのだった。
「もう食うものも水もないが」
「あの男は何時まで戦う」
「洞窟の中も自決の手榴弾を欲しがる怪我人ばかりだ」
「そんな中でまだ戦うか」
「あの男は」
「それでも」
絶望的な戦局の中で思うのだった。
しかし遂にだった、船坂は腹に深い傷を負って這うしか出来なくなった。傷口からは蛆が湧き周りは死を願う者の声で満ちていた。
それでだ、船坂も言った。
「もう終わりだな」
「では」
「分隊長殿もですか」
「これで、ですか」
「自決する」
こう部下達に言ってだった、そうして。
手榴弾、自決用に貰っていたそれを出した。そのピンを抜いたが。
手榴弾は不発だった、それで彼は部下達に項垂れて言った。
「不発か」
「あの、これは」
「何といいますか」
「お気を落とされずに」
「この度は」
「まだ死ねないのか」
項垂れたまま言うのだった。
「いや、死なせてもらえないのか」
「ですからお気を落とされずに」
「まだ何かあるのでは」
「そういうことでは」
「何かか、その何かは一つしかない」
船坂は沈んだ声で言った。
「今はな」
「戦うことですね」
「そのことですね」
「最早」
「俺はまだ這える」
歩けない、だがそれが出来るというのだ。
「ではここは敵将に一矢報いるか」
「そうされますか」
「それではですか」
「分隊長殿は戦われますか」
「最後の最後まで」
「そうしよう」
こう言ってだった。
六発の手榴弾を身体に括り付け拳銃を一丁手に持ってであった。
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