第三章
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「兵達は戦えるからだ」
「だからなのですか」
「乃木大将のままですか」
「あの方のままですか」
「そうだ、陥ちぬ時は陥ちぬ」
要塞、それはというのだ。
「どうしてもな、だがその中でも兵は戦えるのはな」
「乃木大将だからですか」
「あの方だからですか」
「あの方だからこそ兵達は戦える」
「だからですか」
「そうだ、ここは乃木しかいない。以後この話はせぬ」
決してとだ、こう言われてだった。
帝は乃木を替えられなかった、そして。
旅順で第三軍の将兵達は勇敢に戦い続けた、多くの将兵達が傷付き倒れるがそれでも彼等は戦い続けた。
彼等は乃木を見て言うのだった。
「司令を見ろ」
「お顔の皺がまた増えられていますね」
「昨日にも増して」
「そうなっていますね」
「そうだ、この戦いで一番苦しんでおられる」
乃木こそがというのだ。
「それがわかるな」
「はい、確かに」
「我等が倒れ傷付くのを見て」
「それで」
「ご子息を二人共失われた」
このことも言われるのだった。
「お二人は結婚されていない」
「はい、それでですね」
「もう乃木家は絶えますね」
「それでは」
「ご子息達をあえて死地に向かわせられたのだ」
乃木がそうしたことも言われた。
「安全な場所に送ることも出来た」
「誰がそのことを言うか」
「そうでしたが」
「司令はそうされました」
「敢えて」
「そうだ、そして今もだ」
死闘が続く中でもというのだ。
「我等を見てくれている」
「その司令を見ていると」
「どうして戦わずにいられるか」
「全くです」
「そうだ、戦うぞ」
将兵達は口々にこう言い合って死地に向かい多くの者が倒れた、乃木はその彼等を指揮し沈痛な顔でいた。
死闘が続きそしてだった。
遂に児玉が来た、児玉は乃木から指揮権を譲り受けることになったが乃木に会って親友でもある彼の顔を見て言った。
「よく戦ってくれました」
「そう言ってくれますか」
「はい、貴方だからこそです」
乃木だからこそとだ、児玉も言うのだった。
「兵達も戦えました」
「ですが私は」
「わかる者はわかっています」
児玉はそこから先は言わせなかった、そうしてだった。
旅順は彼が二〇三高地から砲撃を行わせそれにより陥落した、結果として児玉の采配が旅順を攻略させた。
だがそれまで第三軍は何故勇敢に戦い続けかつ戦えたか、そのことを考える者は少ない。乃木をその損害の多さから無能だったと言う人も多い。だが第三軍の戦いぶりを見て司令官の乃木が無能であったと言うのは早計ではないだろうか。旅順はあまりにも堅固であり日本は切り札と言ってもいい児玉まで向かわせる程であった。その旅順で第三軍全体を戦わせることが出来た乃木を何故明治帝
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