第一章
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乃木なれば
この時日本は苦しんでいた。
露西亜との戦争は正念場を迎えていた、この国が遼東半島の先端に築いた旅順要塞への攻略にかかっていたのだ。
旅順を攻めるのは乃木希典大将が率いる第三軍だ、乃木がこの要塞攻略を任されたのには一定の理由があった。
「先の清との戦争でも乃木は旅順を攻めた」
「なら今回も乃木でいいだろう」
「先に攻めたのなら土地勘がある」
「それならば問題ない」
日本の首脳部はこう考えて乃木に任せることにした、だが。
乃木は旅順に着いて要塞を見て眉を顰めさせて言った。
「これは容易ではない」
「ですが閣下はです」
「かつてあの要塞攻略にかかられています」
「そして攻略されています」
「ほんの十年前に」
「あれは清との戦いだ」
乃木は周りの者達にこう答えた、古武士然とした顔で。
「今の敵は露西亜だな」
「はい、あの国です」
「まさに」
「それで、ですか」
「清より技術が上でだ」
軍事のそれもというのだ。
「そして陣の築き方も違う」
「だからですか」
「攻めるのは容易でない」
「そう言われますか」
「これは厳しい戦いになる」
乃木は眉を顰めさせて言った、そして実際にだった。
旅順攻略は日本軍にかなり厳しいものになった、幾ら攻めてもだった。
旅順は陥ちず将兵の損害ばかり増えていった、その中には。
乃木の二人の息子もいた、二人共壮絶な戦死を遂げており周りは自然と乃木を気遣った。
「見事なお最期でした」
「武人に相応しいものでした」
「非常にご立派でした」
「そうか」
乃木は顔には出さない、こう答えるだけだった。
そのまま指揮を続ける、しかしだった。
旅順は陥ちない、やはり損害ばかりが出る。この状況を見てだった。
日本の中では自然にこうした声が出てきていた。
「乃木大将では無理ではないのか」
「旅順は攻め落とせないんじゃないのか」
「そもそもあの人は軍人としていいのか」
「薩摩との戦いで連隊旗を奪われているぞ」
乃木の過去のことも出して批判された。
「そう思うとだ」
「やはり乃木大将では無理じゃないのか」
「ここは司令官を交代させるべきだ」
「このままじゃ旅順は落ちないぞ」
「旅順を攻めあぐねている間にロシア軍が反撃に出るぞ」
「本土からどんどん兵を送って来るぞ」
「あっちはシベリア鉄道で人もものも送って来るんだ」
ロシア軍のことも言われるんどあった。
「それにバルチック艦隊が来るぞ」
「あの艦隊に旅順に入られたら勝てないぞ」
「只でさえ旅順の黄海艦隊が厄介だというのに」
旅順の港の黄海艦隊も問題なのだ、この艦隊を倒す為に帝国海軍は海戦を行い封鎖の為に決死の作戦も成功させ広瀬武
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