第一章
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車椅子
彼、小山内正弘はよくこんなことを言っていた。
「怪我とかしたらさ」
「どうだっていうんだよ」
「それで」
「ああ、楽にならないか?」
こう中学のクラスメイト達に話した。本当によく。
「部活だって体育の授業だって休めるだろ」
「それでか」
「それで怪我したら楽だっていうんだな」
「ああ、特にな」
彼はさらに言うのが常だった。
「車椅子になったらな」
「いいのか?」
「あれのお世話になったら」
「そうだろ?だって座ったまま移動できるんだぜ」
彼は所謂物ぐさだった。何をするにしても面倒臭いと考えるタイプだった。それでいつもクラスメイト達にこんなことを言っていたのだ。
「だったらな」
「車椅子でいたいのか?」
「そうなのか?」
「座ったままあちこち動きたいだろ」
また言う彼だった。本当に常に。
「俺歩くの嫌いだしな」
「全く。ものぐさだな御前」
「歩くのも嫌かよ」
「そんなこと言ってたら運動不足になるぞ」
「足腰動かなくなるぞ」
「だから動きたくないんだよ」
小山内の考えは変わらない。しかも全く。
「出来るだけな」
「だったら怪我する様に祈ってろ」
「そうな」
クラスメイトはそんな彼に呆れながらこう告げた。そしてだった。
小山内の物ぐさはそのままでとにかく怪我でもして体育の授業に出たくないと考えていた。そして部活もだ。座って移動できたらいいといつも考えていた。その中で。
彼の不注意で下校中に足を踏み外し深い溝に落ちた。そうしてだった。
両足を骨折してしまった。そこで医者にこう言われた。
「後遺症はないです」
「そうですか」
「ただ。両足骨折ですから」
だからだとだ。医師は彼に言う。
「歩けないですからね」
「じゃあずっと寝ていればいいんですね」
「いえ、入院しないといけないですが」
後遺症はないがそれだけの怪我だというのだ。
「その間車椅子ですね」
「あっ、車椅子ですか」
その前から乗って座ったまま移動できるそれが使えると聞いてだ。小山内は思わず喜びの声をあげてしまった。
「それに乗ってですか」
「移動になりますね」
「じゃあ入院している間は」
「はい、リハビリから歩ける様になるまで」
それまでだと。医師はさらに話す。
「車椅子になります」
「そうなんですか」
「あの、何かですね」
医師は小山内のその顔を見て彼は怪訝な顔になりこう言った。
「嬉しそうですけれど」
「だって座ったまま移動できるんですよね」
まだ子供である彼は実際に笑顔で医師に返した。
「そうですよね」
「それはそうですが」
医師は口ごもって彼に話す。
「大変ですよ」
「大変なんですか
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