第五章
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「神にもなります」
「祀られてですね」
「そうです、この様に」
「そうですか、いいことを教わりました」
山口は神主に確かな笑みで答えた。
「今日のことは忘れません」
「そうして頂ければ何よりです」
「そういえば」
ここでだ、ふとだった。
山口は今自分が津軽にいることから思った、津軽といえばとなったのだ。
「太宰治ですが」
「あの人ですか」
「津軽といえば」
「そうですね、やはりです」
「一番の有名人ですね」
「今ではそうですね」
神主は山口の今の言葉にも笑顔で答えた。
「そうなっていますね」
「この津軽の大地主の家で生まれた」
「そうです、親戚の方は今でも政治家です」
「そうでしたね、ご実家は」
「そうした家の方です」
「そのことは知られていますね」
「津軽でも」
こう山口に答えた。
「そしてその太宰の作品で」
「おわかりでしたか」
「お伽草子ですね」
「それで瘤取り爺さんのお話もありますが」
「あの作品は私も読みました」
神主は山口に穏やかな声で答えた。
「原典とは変えている部分が多いですね」
「どの作品でも」
「かちかち山にしても」
「惚れたが悪いか、ですね」
「太宰の代表作の一つで」
「面白い作品ばかりですね」
「その瘤取り爺さんですね」
神主も作品の題名を話に出した。
「あれでは鬼達に悪意はないですね」
「世の理不尽さを書いたと見受けられますが」
「確かに鬼達に悪意はない」
「それはやはり」
「大人のことを知っていててですね」
「ここは津軽ですから」
その太宰の出身地だからだというのだ。
「太宰も大人のことを知っていて」
「それが瘤取り爺さんにも影響している」
「そうも思ったのですが」
「そうかも知れませんね、鬼といっても」
神主はまた言った。
「悪いとは限らないですか」
「大人の様に人を助ける鬼もいる」
「そうなのですから」
山口に笑顔で話した、そして山口も笑顔で応えた。
山口は神主との話を終えると大湊に戻った、その顔は実に晴れやかなものであり満足した気持ちで自分の部屋に戻りそうして太宰のお伽草子を開いてまた笑顔になった。
大人 完
2020・2・18
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