第一章
[2]次話
大人
津軽の話である。
この地域に大人という存在がいた、その大人の名前を聞いて青森県の海上自衛隊の大湊の基地に赴任した山口克尚はこう言った。
「巨人ですか」
「ああ、そうらしいな」
上官である武内元義はこう山口に返した。
「どうもな」
「そうですか」
「そんな話があっちにはあるんだよ」
津軽にはというのだ。
「何でもな」
「そういえば青森は」
山口はそのいつも引き締まっている目で述べた、口元もそうであり頬は何か詰めものをしているかの様に膨れている。一七二センチ程の体格は筋肉質で骨太だ。防衛大学を抜群の成績で卒業し江田島の海上自衛隊幹部候補生学校も優秀な成績で卒業し遠洋航海を経てこの度大湊に三等海尉として赴任した。海上自衛隊の幹部の黒と金のブレザーの制服もよく似合っている。
「大湊がある陸奥とはですね」
「ああ、津軽はな」
「また別の地域ですね」
「同じ青森県でもな」
県としての区画はそうであってもというのだ。
「それでもな」
「また別で」
「色々違う」
「そうでしたね」
「お前は九州出身だったな」
「鹿児島です」
山口は自分の生まれの話もした。
「その鹿児島も」
「薩摩と大隅だな」
「昔の国の区画で」
廃藩置県の前のとだ、山口は武内に答えた。武内は防大の先輩でありまだ二十代だ。痩せて色黒で眼鏡をかけている。身体も痩せている。
「それで」
「そうだな、同じ県でもな」
それでもというのだ。
「地域が違ってな」
「津軽ではですか」
「そんな話があるんだ」
「そうですか」
「津軽っていったらあれだろ」
武内は山口に話した、二人共今は自分達が赴任している護衛艦の中にいる、艦の士官室で共に仕事をしつつ話している。
「小説家の」
「太宰治ですね」
「太宰だけでなくてな」
「そうした話もあるんですか」
「ああ、それでな」
「その大人がですか」
「色々したらしいな」
こう山口に話した。
「岩木山の方で」
「津軽の」
「ああ、そこで田んぼの開墾をしてな」
武内はまずはこのことから話した。
「それで鉄もな」
「そっちもですか」
「農具を作ってな」
そうしてというのだ。
「村の人達にあげてたらしいな」
「いい存在ですか」
「みたいだな、鬼の一種らしくてな」
「鬼ですか」
「こう言うとあれだな」
武内は考える顔になって話した、自分の書類仕事をしながら。見れば彼よりも山口の方が種類仕事は速い。
「秋田の」
「ナマハゲですね」
「あれみたいだな」
「そうですね」
「東北だからな」
「ナマハゲみたいにですか」
「そんな話があるな、ここは蝦夷の土地だったしな」
武内は東北の歴史の話もした。
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