第一章
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失われた信頼
最初は皆信じていた。誰もが彼をいい人だと思っていた。
「良識派だろ」
「うん、話がわかるな」
「ちゃんとした話ができるしな」
「あの人がいてくれてこそだよ」
「あの人がいてくれたら安心だよ」
「何でも任せられるよ」
こう言って誰もが彼を信頼し何かあると相談していた。ただ分別があるだけでなく相談にも乗ってくれて何でも解決してくれる、そうした人だと思われていた。
彼の名は田中秀光という。中学校の社会の先生だが教師の間でも生徒の間でもそうした先生と思われていた。それでだった。
生徒達もだ。こう話すのだった。
「困ったら村田先生に言えばな」
「それで何とかしてくれるしな」
「生活指導でも真面目だしな」
「俺達のことわかってくれてるしな」
「本当にいい先生だよ」
「ああした先生もいるんだな」
「頼りになるな」
こう言って生徒達も彼を慕っていた。誰もが彼を慕っていた。
しかしその彼にこんな噂が出ていた。
「えっ、セクハラ?」
「DV?」
「あの先生が生徒に手をつけたって?」
「奥さんにいつも暴力を振るってる?」
「そんなの嘘だろ」
「それはないだろ」
皆その話をまずは信じようとしなかった。
「あの先生に限ってな」
「まさかそんなな」
「そういうことする先生じゃないだろ」
「そうだよな」
皆最初は誰も信じなかった。しかしだった。
その声は静まらなかった。むしろだった。
声は次第に広まっていきしかも疑惑はさらに出て来た。その疑惑はこんなものだった。
「えっ、部活で生徒に暴力?」
「体罰どころじゃなくてか?」
「それ本当か?」
「そんなことする先生か?」
「まさかって思うけどな」
「確かに怒ると怖いよ」
その時は全力で起こる先生だった。そうしたことはしっかりしているのだ。
だが、だった。過剰な体罰となると。
「ちょっとなあ」
「セクハラといいな」
「ないだろ。そんなの」
「そんなことする先生じゃないぞ」
「そうだよ。体育の平屋と違ってな」
田中と仲の悪い教師だ。勤務態度は悪くその癖権力志向が強く生徒を自分の出世の道具としか見ていない。顧問である剣道部の指導に熱心だがそれは部を強くさせて自分の評判を上げる為でしかないというのは誰もが知っていることだ。
生徒指導でも常に生徒を恫喝し手には竹刀がある。皆その平屋ならというのだ。
「あるけれどな」
「田中先生はそんな人じゃないよ」
「どっからこんな噂出たんだか」
「ちょっとなあ」
「訳わからないな」
誰もが首を傾げることだった。だが。
噂が出ていることは確かでそれは次第に広まっていっていた。しかもその噂の悪質さはエスカレートしていった。
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