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戦国異伝供書
第百六話 八万の大軍その六

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「よいな、首はうち捨てよ」
「耳を証とせよ」
「倒した敵のそれを取り」
「戦の後の褒美の見定めとしますか」
「そうせよ、では今宵じゃ」
 こう言ってだった、氏康は和の話に応じて戦に勝ったと思いすっかり油断している敵の大軍を見据えつつ諸将に話した、そしてだった。
 彼等は早いうちに飯を食った、その間に両上杉を軸にした八万の関東諸侯の大軍は宴を開いて酒すらも飲んだ、そうしてその殆どがすっかり酔い潰れた。
 氏康は夜になると軍勢を率いて彼等の傍に来て傍に控えていた風魔に話した。
「ではじゃ」
「これよりですな」
「うむ、城の方に人をやってじゃ」
 河越城にというのだ。
「そしてじゃ」
「ご出陣をですな」
「言うのじゃ、あ奴もうって出れば」
 綱成、北条家きっての猛将である彼がというのだ。
「鬼に金棒じゃ」
「だからですな」
「ここはじゃ」
 まさにというのだ。
「その様に伝えよ」
「わかり申した」
 風魔は氏康に確かな言葉で答えた。
「それではです」
「宜しく頼むぞ」
「その様に」
「では我等はな」
 氏康は自ら馬に乗り槍を手にして言った、既に兜は被っている。
「これより攻める、兎角じゃ」
「白い服や具足の者は攻めるな」
「敵の首ではなく耳を取れ」
「そして敵を隅から隅まで攻めるのですな」
「それを徹底するのじゃ」
 こう言うのだった。
「わかったな」
「わかり申した」
「それではです」
「これより攻めましょうぞ」
「では行くぞ」 
 氏康は自ら馬を駆り攻めに入った、兵達もそれに続き。
 法螺貝と鬨の声と共にだった、北条の軍勢は酔い潰れ寝静まっていた敵の大軍に襲い掛かった。それを受けてだった。
「何じゃ!?」
「何が起こった!?」
「同士討ちか?」
「酔ってのことか!?」
 多くの者はそれかと思った、だが。
 彼等が起き上がるとそこにだった。
 槍や刀が来て倒される、そしてだった。
 河越城にいた綱成も兵達に言った。
「よいな」
「はい、これよりですな」
「戦ですな」
「その時が来ましたな」
「遂に」
「今こそ北条家が関東に覇を唱える時じゃ」 
 まさにその時が来たというのだ。
「だからじゃ」
「これよりですな」
「敵を大いに攻めて」
「そうしてですな」
「倒しますな」
「そうせよ、殿はもう攻めておられる」
 援軍に来た氏康はというのだ。
「だからじゃ、皆の者わしに続いてじゃ」
「殿と共に戦う」
「殿ご自身がそうされているのなら」
「我等もですな」
「そうせよ、では攻めるぞ」
 こう言ってだった。
 綱成もうって出た、そしてだった。 
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