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戦国異伝供書
第百六話 八万の大軍その四

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「この度の戦は」
「左様ですな」
「関東の諸侯は数は多いですが」
「船頭がいませぬな」
「はい」
 まさにというのだ。
「両上杉が軸ですが」
「両方です」 
 氏康も言った。
「それは」
「軸が二つですと」
「その軸達がですな」
「常に争い」
 そしてというのだ。
「周りもです」
「どちらにつこうかと思ったりして」
「乱れます」
「左様ですな」
「古河の公方様がおられても」
「軸は両上杉なので」
「周りもどちらかと見ます」
 そうなるというのだ。
「そしてまとまりがなくなります」
「しかも両上杉は元々犬猿の仲」
「常に争ってきましたな」
「同じ家の中で」
「むしろ同じ家だからです」
「争いますな」
 こう幻庵に述べた。
「そうなりますな」
「それは今も同じです」
「陣を見れば」
「両上杉は結んでいる様で」
「実はですな」
「互いを牽制しておりますな」
「ですな」
 見ればお互いに抜け駆けをさせない様に邪魔し合っている、そうした陣形の組み方を互いにしていた。氏康もそれを見て述べるのだ。
「あれは」
「ならです」
「それならですな」
「はい、ここはです」
「まさにですな」
「そこが狙い目です」
 幻庵も氏康に話した。
「攻めるならば」
「左様ですな」
「はい、しかもです」
「敵は大軍なので」
「まだ弓矢の一本も放っていませんが」
 それでもというのだ。
「もうです」
「勝ったつもりですな」
「河越城を確実に攻め落とせる」
「そして我等が攻めても」
「勝てるとです」
「信じて疑っていませぬな」
「大軍故に」
「ですな」
「そこも狙い目です、軍勢は勝ったつもりで」
 それでというのだ。
「商いに来た者達からものを買い」
「くつろいでさえいますな」
「そうしています」
 見ればそうなっていた、八万の軍勢は商いに来ている者からものを買ったりしている。陣の中も見張りもいい加減になっている。
 それを見てだ。幻庵はさらに言った。
「ご覧の通りに」
「今攻めると流石に戦になるでしょうが」
「しかしです」
「完全に油断させてです」
「夜襲を仕掛ければ」
「間違いなく勝てます」
「では」
「和睦を申し入れましょう」
 幻庵は氏康にこうも言った。
「ここは」
「先に話された通りに」
「はい、城を明け渡すので」
 その河越城をというのだ。
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