第百六話 八万の大軍その三
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「勝てぬ」
「こちらは八千」
「河越城の兵を入れても一万おるかどうか」
「これではですな」
「正面きって戦っても勝てませぬな」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「ここはじゃ」
「正面からは戦わぬ」
「そうしますな」
「何としても」
「敵を油断させる」
これまで気付かれぬように用心していた彼等に対してというのだ。
「戦の前にな」
「そうしてですな」
「一気に攻める」
「そうしますな」
「この度は」
「夜に攻めたい」
夜襲、それを仕掛けるというのだ。
「さらにな」
「敵を油断させ」
「そのうえで夜に攻める」
「ではですな」
「そうなる様に手を打っていきますか」
「出陣してからな、」
「ではその策はです」
幻庵が言ってきた。
「それがしがです」
「出してくれますか」
「これより、敵を油断させ夜襲にするには」
それにはとだ、幻庵は氏康に自分の考えを話した。氏康は彼からその話を聞くと確かな顔で頷いて述べた。
「それならば」
「いけますな」
「その策見抜ける者は敵におりませぬ」
「山内上杉家の長野殿ならば若しやですが」
「その長野殿はですな」
「上野に残っておられ」
そしてというのだ。
「出ておられぬのですな」
「はい」
そうだとだ、風魔が答えた。
「長野殿のお姿確かにです」
「上野でじゃな」
「それがしが見ました」
こう答えた。
「まさに」
「山内上杉家はご当主自身が出陣され」
「長野殿は上野に備えとしてです」
そのうえでというのだ。
「残っておられます」
「ならばです」
「この策敵に見抜ける者はない」
「ですから」
それでというのだ。
「間違いなくです」
「その様にですな」
「進めることが出来ます」
戦をというのだ。
「間違いなく」
「さすれば」
「はい、ここはです」
まさにというのだ。
「出陣しましょうぞ」
「そうしてですな」
「敵を策に嵌め」
そしてというのだ。
「勝ちましょうぞ」
「では」
氏康も頷きそうしてだった。
氏康はここに出陣を命じた、そうして今北条家は出せる兵を全て出して河越城に向かった。そうしてだった。
城を囲む大軍を見て氏康は言った。
「この数は」
「勝てませぬな」
「はい、今の我等の数では」
こう幻庵に答えた。
「とても」
「左様ですな、しかし」
「叔父上の策ではですな」
「勝てますぞ」
間違いなくというのだ。
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