第一章
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狐火
江戸時代も中頃、名古屋にある豪商がいた。豪商のその屋敷には妙な噂があった。その噂はどういったものかというと。
「狐が出るって?」
「そうらしいな」
「何でも屋敷の外れの部屋に一匹住み着いたらしい」
「それが出て来るらしいぞ」
その話は名古屋中で噂になっていた。
当然屋敷の主である豪商三上屋吉兵衛もそのことは知っている。それでいつもいぶかしむ顔で家の者達に言っていた。
「あの部屋は特に何もなかったからね」
「それで。ですよね」
「空けていたんですよね」
「そうだよ。物置場にでもしようとね」
そう思っていたというのだ。
「爺さんが住んでいたけれどいなくなったしね」
「ご隠居ですね」
「大往生でしたね」
「あたしが入ってもよかったけれどもうあたしの部屋はあるしね」
「茶室もありますしね」
「あたし等の部屋もありますし」
丁稚の部屋も屋根裏ではなくそれなりの部屋に一つになって住んでいる。豊かな家なので丁稚達の部屋もあるのだ。
だがそれでも空けていてだったのだ。
「狐が来るなんてねえ」
「全く。何時の間にかいついちゃいましたね」
「時々酒飲んで騒ぎますし」
「夜に近くを通りかかった人を化かすし」
道に迷わせたり上から水をぶっかけたり大きな化け物に化けて驚かせたり。そうして悪戯をして楽しんでいるのだ。
それで夜道に屋敷に誰も近寄らない様になっている。商いには影響は出ないがそれでもだというのである。
「全く。どうしたものか」
「犬でも呼びますか?」
「それとも坊さんに来てもらうか」
「どっちにしても悪戯が過ぎますしね」
「それじゃあ」
とにかく狐を何とか追い出すことは決まった。それで犬を飼うなり坊さんか神主さんに来てもらってお祓いをするなりで決まろうとしていた。だが、だった。
そんなことを話していた矢先に屋敷に一人の女が来た。やけに細面で目が吊り上がった痩せた女だった。
歳は三十五程で声もそんな感じだ。その女が店に入って来るなり吉兵衛達にこんなことを言ってきたのだ。
「この屋敷の外れに狐が出るそうですね」
「ええ、それで困ってるんですよ」
すぐに吉兵衛自身が答える。
「実際に」
「そうですか。それでその狐というのは」
「もう毎晩悪戯をするか酒を飲んで騒ぐか」
実際にそうなっていることを女に話す。
「それで困ってるんですよ」
「ですか。それでその狐をどうされるおつもりで」
「いえね、あまりに迷惑ですから」
吉兵衛は丁度店で話していたことを女に話す。
「犬か坊さんにでも来てもらって」
「追い出すと」
「はい、そう考えてます」
このこともありのまま話す吉兵衛だった。
「どっちがいいかってことですけれどね」
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