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戦国異伝供書
第百五話 氏康の治その十一

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「勝てぬかと」
「長尾殿には」
「そう出ています」
「そうですか、ここに来て天下に傑物が出ていますな」
「はい」
 まさにとだ、幻庵も答えた。
「どうも」
「武田殿、今川殿に」
「そして長尾殿にです」
「特に織田殿ですな」
「そして殿もです、これは天下が大きく動くことになるかと」
「傑物が天下を動かしますか」
「そうなるかと、ですから」
 それでというのだ。
「殿はこれからです」
「関東をですな」
「攻めていかれて下さい」
「さすれば」
「その為にもです」
 まさにというのだ。
「河越ですな」
「あの地での戦ですな」
「そうなりますな」
「それがしも両上杉は動くとです」
 その様にというのだ。
「見ております」
「左様ですな」
「そして動けばです」
「当家に反感を持っている関東の諸家が動きますな」
「一斉に両上杉につきます」
 そうなるというのだ。
「そしてです」
「河越城に攻め寄せますな」
「八万の大軍になることも」
 このこともというのだ。
「充分に有り得ます」
「それに対して我等は動かせる兵は八千」
「まともしても勝てませぬ」
「ですな」
「しかしです」
 それでもというのだ。
「ここまでくればです」
「戦うしかありませぬな」
「負ければ当家は少なくとも河越を失います」
 苦労して手に入れたこの地をというのだ。
「最悪滅びることもです」
「ありますな」
「ですが勝てば」
 この場合はというと。
「関東の覇者にもです」
「つながりますな」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「ここはです」
「腰を据えて向かう」
「そうしていきましょう」
 こう氏康に言うのだった、そして実際にだった。
 両上杉は河越城を奪わんと動きだしていた、今まさに北条家の運命を決する戦がはじまろうとしていた。


第百五話   完


                 2020・7・8
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