第六章
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「それで皆も」
「そうよね。けれどね」
「けれど?」
「貴女は自分が悪いということを自分で認めたわ」
自分がしたことに対してそうしたというのだ。
「それでちゃんとやるべきことをしたわね」
「このことはいいんですね」
「そうよ。いいことをしたから」
それでだとだ。先輩はすみれに言っていく。
「しなければいけないことをね」
「じゃあ私は」
「そう、辛くてもね」
確かに今は辛い、それでもだというのだ。
「泣くことはないわ」
「そうなのね」
「そう、貌を上げるといいから」
そうすればいいというのだ。
「一人じゃないし」
「一人じゃないんですか」
「寮で一人かしら」
「いえ」
それは違った。確かにすみれを批判する者はかなり多くなった、学校の中の大半の人間がそうだと言っていい。
だがそれでもだった。彼女には。
「確かに部活も辞めましたけれど」
「寮からの登校の時はいつもよね」
「一緒にいてくれている娘がいます」
親友と言っていい相手、その相手がちゃんといるというのだ。
「いつも。ですから」
「一人じゃないわね。それに」
「それに?」
「私はこうしていていいかしら」
先輩はにこりと笑って貌を少しだけあげたすみれに言った。
「こうしてここにね」
「それって」
「ええ、一緒にいていいかしら」
ここにいるということは即ちそういうことだった。すみれの隣に。
「そうしていいかしら」
「いいんですか?」
「人って誰でも過ちを犯すものなのよ」
それはどうしても避けられないというのだ。すみれにしてもそうだというのだ。
「私もそうだったし」
「先輩もですか」
「そうよ。人は誰でも色々なことがあるのよ」
こうすみれに言う。
「悪いことをしてしまうこともね」
「私だけじゃなくて」
「そう、そうしたことを経験していって大きくなっていくのよ」
先輩は人生を語る。そうした意味で彼女もすみれを同じだというのだ。
「反省して。そうして」
「そしてですか」
「前に行きましょう、だから貌をあげて」
「はい」
すみれは先輩の言葉を受けて貌を完全にあげた、そしてその彼女に。
先輩は背中をぽんと叩いてこうも言った。
「泣かないで笑顔で前に行きましょう」
「そうします」
すみれは何とか笑顔を作った、そうしてだった。
泣くことなく前に向かった、先輩はその横で温かい笑顔で一緒にいてくれた。
暫くしてすみれの批判は徐々にだが消えて普通の付き合いに戻った。だがそれからだった。
もう二度と誰かを責めることはしなくなった。むしろそうしたことがあれば庇う様になった、そうなったことにはその事情があったのだ。
泣くことはない 完
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