プロローグ
敗残狼の反攻の狼煙
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。指揮官の風上にも置けない男だな。地獄へ堕ちろ」
牙がさらに深く刺さり、頸動脈を切り裂く。そこまで来て狼男は隊長の首から口を離した。
隊長は目を見開き、頭をのけぞらせて倒れる。やがて彼の意識は真っ暗になってしまい、動かなくなった。
狼男は人間の姿に戻ると倒れた救援部隊の隊長の脈を測る。脈は止まっていた。
測り終えるとちょうど副官が追いついて来たので彼に次なる命令を下す。
「敵の指揮官の死亡を確認、拠点に帰投するぞ」
副官はかかとを打ち合わせて直立不動の姿勢をとるとナチス式敬礼をして応えた。
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彼の名はバカラシン・イイデノビッチ・ゾル。ドイツ国防陸軍大佐であり、青年将校である。誇り高きアーリア人であり、軍人としての周囲からの評価もすこぶる良い。そのおかげかヒトラーから短鞭を賜ったこともあった。
そして祖国から『優秀』であると判断されたゾルは狼の改造人間に選ばれた。
大きな牙に鋭い眼光、これほど素晴らしい肉体に改造してもらえたことに彼は誇らしく感じた。
しかし彼の改造手術を担当した科学者達に言わせればこれでもまだ不完全体であり、もう少し時間があれば完全無欠な狼男になれるとのことだった。だがあいにく偉大なる第三帝国に残された時間は少ない。不完全だろうがなんだろうが軍人である以上、敵が迫ってくれば戦わなければならなかった。
だから……だから戦い続けた。偉大なる第三帝国の為に。偉大なる総統閣下の為に。そして……同胞たるゲルマン民族の未来の為に。
改造人間連隊。
ドイツ第三帝国総統、アドルフ・ヒトラーが最後の祖国防衛の為に創設した極秘部隊であり、ドイツの医学技術の粋を集めて作られた動植物の特性を持つ改造兵士の部隊である。
少なくともゾルは彼の上官からはそう聞かされていた。
ゾルが改造人間の存在を知ったのはその時が初めてではなかった。
噂ではあったが一時、彼が管理人を任されていたアウシュビッツ強制収容所でそれらしい研究をしているというのは聞いたことがあった。
しかし収容所での研究・開発自体は科学者の仕事であり、一介の軍人である彼に知る権限はなく、本格的な開発実験が進められたのも彼の後任になってからだった。
話を戻そう。ゾルの指揮する改造人間連隊は現在、危機を迎えていた。
彼の連隊に所属している者は皆、自分は『ドイツ軍人』として精鋭であり、『生体兵器』としても申し分ない性能を持っているという揺るぎない自信を持っていた。しかしこの広大な西部戦線の米英軍の物量作戦を足止めするにするには人数も補給も足りなかったのだ。餓えや喉の乾き、また弾薬の不足で八千人程いた連隊も既に数百人しか
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