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怪奇なお局様
第三章

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「それだったらこれでわかったわね」
「ううん、そうした事情だったんですね」
「そうよ。まさか会社に取り憑いている妖怪か何かと思ったのかしら」
「いや、そこまでは」
 微かに思っていたがそれは言えない紘だった。
「何というか」
「人間だから。足もあるから」
「それは幽霊なんじゃ」
「とりあえずちゃんと家庭もあるし趣味も持ってるから」
「そうだったんですか」
「趣味は温泉よ」
 流石松山だ。夏目漱石の小説にもあるがやはりこの町は温泉だ。
「それと好物は蜜柑に天麩羅そばよ」
「天麩羅そばって」
「坊ちゃんみたいだっていうのよね」
「そのままじゃないんですか?」
「実際に読んでるから」
 その坊ちゃんをだというのだ。
「愛読書よ」
「そうですか」
「とにかく。今日はこれでビルも閉めるから」
 だから帰れというのだ。
「また明日ね」
「はい、それじゃあ」
 紘も納得した顔で頷く。そしてだった。
 彼は自分の家に帰りそうして彼のプライベートに戻った。宇山のことを知ることができて満足しながら。
 それから彼は今日も飲み屋にいてそこで友人達にこう言うのだった。
「宇山さんも人間なんだな」
「そうだな。ちゃんと家庭もあって趣味とかもあるんだな」
「そうだったんだな」
 周囲も言う、
「いや、幾ら何時出て来て何時帰ってるかわからなくても」
「人間なんだな」
「そうなんだよな。いや、本当にちょっとだけだけれど思ったよ」
 紘は少し後ろめたい笑顔で言った。
「あの人ひょっとして人間じゃないかもってね」
「俺もだよ」
「俺も実はさ」
「それでも実際はなんだな」
「人間なんだな」
「うん、そうだったんだね」
 幾らスケジュールが凄まじくても人間は人間だ、例え謎だらけであっても。 
 紘はこのことを知った、それでビールを飲みながら言うのだった。
「すぐに人間かどうかって思うことはよくないね」
「だよな、本当に」
「皆結局は人間なんだよな」
 例え宇山みたいなスケジュールでも仕事ぶりでもだと。やはり人間であることがよくわかった彼等だった。


怪奇なお局様   完


                             2012・10・2
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