ターン32 鉄砲水と古代の叡智
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僕は水中を自在に動き回って呼吸をし、あるいは水面を歩くこともできる。
どんどん沈みながらも海流に揺らめく服を覆うようにして、灰色の地に紫色の幾何学模様が入ったフード付きローブが生成される。僕自身には見えないけれど既にこのローブの下の体にも無数の同じ模様が走って、両目は黒目と白目がひっくり返って紫に染まっていることだろう。海底に辿り着いたときには、僕の姿はすっかり地縛神官ファッションになっていた。
『考えてみれば、こうしてマスターと海に潜るのは初めてだな』
僕よりも数段呑気なチャクチャルさんの声が、頭の中に響く。今回の僕の仕事は、上を爆走する糸巻さんの援護。この海の中から何か仕掛けてきてるやつを探してぶちのめす、非常にわかりやすくていい。場所は海底、それに上空は曇り空ということもあって辺りは暗いけれど、まあ何も見えないほどではない。例えばそう、背後から飛んできた魚雷らしき細長い飛翔体、丸まったポスターほどの大きさのそれを識別できる程度には。
「危なっ!?」
水中特有の浮遊感に体を躍らせ、大きく海底を蹴っての水中3回転飛び。飛び上がった真下を通り抜けた小さな魚雷がそのまま真っすぐ飛んでいったのを確認し、それがやってきた方向へと向き直る。改めて目を凝らす必要は、もうなかった。そこにいたのは、強烈なライトの光で海中を照らす小型の潜水艇。そのガラス張りになった正面からは、逆光で顔は見えないものの1人の人影がこちらを覗いていた。あんなモンスターはこれまで見たことがないから、恐らくあれは本物の潜水艇なのだろう。
……なんかもうこの世界に来てから、猫も杓子もカードの実体化だ。精霊の世界とはまた違う感覚に、正直どれが本物でどれが実体化……『BV』なのか、境目が分からなくなってきている。
そんなことを考えていると、潜水艇の上部からメガホンらしきものがせり上がってきた。何か喋りたいらしいけど水中でメガホンなんて使えるだろうかと心配したのもつかの間、大きなお世話だと言わんばかりに神経質そうな男の声が聞こえてきた。
「糸巻が釣れたかと思ったら、なんです君は。海底に、生身で?なんのカードを使って潜り込んだのかはわかりませんが、デュエルポリスの人材難も著しいようですね。どこのどいつとも知れぬ馬の骨まで駆り出さなければいけないとは、敵ながら嘆かわしい」
『カードの実体化という点では、まあ間違ってはいない……のか?なんにせよよかったなマスター、勝手に勘違いしてくれたおかげで面倒な説明が全部省けたぞ』
わかりやすい挑発に、僕にしか聞こえない茶々を間髪入れず差し込んでくるチャクチャルさん。地縛神という肩書からは想像もつかないほどにポジティブな言葉に思わず笑ってから拳を打ち鳴らし、左手の腕輪に組み込まれた意匠を押してデュエルディスクを展開する
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