暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン32 鉄砲水と古代の叡智
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の説得にはある程度時間がかかると踏んでいた。何せ危険度は未知数、おまけに清明自身には彼女の手助けをする義理はない。しかし本人も口にしたように今更新しい人員を要求するのはあまりにも非現実的であり、彼女1人ではどうにもならないのは先ほどの邂逅が証明している。たとえどれだけ渋られようと、ここで妥協は許されない。そんな覚悟を持っての来店であった。
 それだけに、こともなげな彼の返事には喜ぶより先に拍子抜けした。

「そりゃまあ、面白そうだしいいけどさ。え、危険?いやまあ、これまでもっとヤバいとこも多かったし今更……」

 そう言ってなぜか遠い目になる少年は、見た目よりも急にひとまわりほど年を取っているように見えた。これまで、の内容がほんの少し気になった糸巻だが、聞いたところで頭が痛くなるような話しか出てこないだろうとも予想がついたのでこの件についてのこれ以上の追及はやめておく。理解も想像も追いつかない世界の話に対しほいほい手を伸ばすには、彼女は大人になりすぎた。35年間生きてきたこの世界、自分たちの世の中だけで手いっぱいなのだ。代わりに右手を差し出すと、ほわほわという擬音がよく似合う笑顔と共に握り返される。

「ま、頼むぞ」
「よしきた。バイト代、忘れないでよね」

 対する清明の顔からは、抑えきれない好奇心が透けて見える。たった今糸巻が感じた自分の限界など、まるで考えたこともないような顔。能天気なアホ面と言ってしまうのは簡単だが、それがどこか眩しくも思えた。
 しかし、それは今やるべきことではない。それ以上の感傷は振り切って、即席タッグは再びモーターボートへと乗り込んだ。1度辿り着いた場所ゆえに、霧の出始める場所までも最初よりは早く着くことができる。

「始まったぞ、頼む……」

 ぞ、と言いかけたところでとぷん、とかすかな水音がボートの後部から聞こえてきた。サムズアップする右手だけが海面から突き出ていたが、それもすぐに黒い水底へと沈んでいく。あとは勝手にやる、ということだろう。
 この水の下に誰がいるのかは定かではないが、先の強襲時にあそこまでしつこく追いかけてきたところを見るとおそらく歓迎役はあの1人だけ、そう糸巻は見立てていた。もし他にも誰かいるのであれば、成すすべなく逃げ回っていた先ほどの彼女をさらに追い詰めに来なかった理由がない。

「後は、アタシがうまいことやるだけか」

 呟いて1メートル先も見えないほどの濃霧、あたり一面を覆いつくす迷いの霧を睨みつける。加速するモーターボートが、その中に消えていった。





 海に飛び込んだ瞬間、体の感覚が切り替わるのを感じた。ごく当たり前の陸上仕様から、水中仕様へ。僕に命をくれたシャチの地縛神、チャクチャルさん固有の加護。ダークシグナーの力を発揮することで、
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