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遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン32 鉄砲水と古代の叡智
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で、なにか決定的なものが燃え尽きた気がしてな。だが悔いはない、あの子供たちが最後の相手でよかったよ。お前の言うとおり、俺はもう老人だったんだな。なら、後はもうフェードアウトしていくのが最後の仕事というわけだ』

「……ったく、辛気臭せえ爺さんだ。そんな柄でもねえくせによ」

 思い出したくない部分まで思い出してしまった後悔に小さくぼやいて首を振り、はためいていたコートを体に巻き付ける。風の冷たさもさることながら、最後に本源氏が浮かべた弱々しく燃え尽きたような、しかし穏やかな笑みを思い出して無性に腹が立ち、なんでもいいから体を動かしたくなったのだ。しかしあの笑みの何に対しこれほどまでに苛立つものを感じるのか、糸巻自身にもはっきりと答えを出すことはできなかった。
 そして、その時間もなかった。先ほどまで曇天とはいえ視界は良好、水平線がくっきりと見えていた海面に白いもやが出てきたとみるや、みるみるうちに視界が乳白色の霧に遮られてきたからだ。同時に持ち込んだコンパスがぐるぐると無茶苦茶な回転を始め、GPSの映像にノイズが走り何も見えなくなる。

『あのプラントには、「BV」電波塔の特大サイズがある。あの辺の海にはそれを使って何体かのレベル9シンクロモンスター、ミスト・ウォームを実体化させてあるはずだ。それが出す迷いの霧に遮られて、衛星写真やドローンでも見つかることはない。ただ逆に言えば、その霧が出てきた場所の近くにプラントはある。あの霧は方向感覚が乱されるから簡単に見つかるとは思わないほうがいいが、場所の大まかなヒントぐらいにはなるはずだ』

 霧の中を進みながら、そっとスピードを落とす。暗礁が起きるような海域ではないが、出発前に受けた警告が蘇ったのだ。

『油断するな、糸巻。遅かれ早かれお前がプラントに辿り着くことは、巴も……あるいは俺たちの上も、どちらにせよとっくに織り込み済みのはずだ。歓迎の人員を割かれる可能性は高いぞ』
『はっ、なら三角の旗振って先導でもしてもらおうかね』

 糸巻はいつだって強気な女ではあるが、決しておろかな女ではない。おろかな埋葬はよく使う。本源氏の前ではいつもの不敵な憎まれ口を叩いたものの、その警告の重要性は理解している。視界の閉ざされた霧の中で神経を張り詰め、極力音を殺してどこから何が来ても対応できるように少しずつ進んでいく。
 そして、その警戒態勢が功を奏したのだろう。ごくわずかな異音が聞こえてきた瞬間、なにか考えたりその方向を確かめるより先に糸巻の両腕はモーターボートに組み付き、ほぼ反射的に舵を右に切っていた。船体が横倒しになりかねない勢いで急なカーブを描くと、直後足元の海が大きく揺れた。何かが浮かんできたわけではないところを見ると、魚雷のたぐいか。敵は、海中から仕掛けてきていた。

「ええい、熱
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