ターン32 鉄砲水と古代の叡智
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心地よいエンジン音。波を蹴立ててまっすぐに進みつつ、それでも常にわずかに揺れる船体。そして見渡す限り一面に張った雲のせいで鉛色となった空に海、海、海。
八卦たちとのタッグデュエルから一夜明け、糸巻は小さなモーターボートで海に出ていた。本当は昨日のうちに出たかったのだが、ボートを借り受けるための手続きで多少難航したのだ。先日のデュエリストフェスティバルの際にはまだ涼しい程度で済んでいた風は、あれからさらに深まった秋に海上という場所も相まって、寒風へと変わり彼女の肌から容赦なく体温を奪っていく。
無論そんな時期に彼女が海に出たのは、季節外れのクルージングを楽しむためではない。目だけは絶えず何の変哲もないように見える海面へと走らせ、スピードを落とすことなく海面を爆走しながら彼女は、昨日のデュエル後に本源氏から聞いた話を思い返していた。
『これが何かわかるか、糸巻?』
『何って……馬鹿にしてんのか?海図だろ?それも、この右端がここの港だな。この海岸の形は見覚えがある』
いきなり携帯を取り出し、小さな海図を目の前に投影する本源氏。突如として始まったクイズに意味が分からないながらに即答した糸巻へと重々しく頷くと、おもむろに手を伸ばして海図のある箇所に指で印をつける。
『よし、なら話が早い。お前が探している今回のヤマ、そして俺たちの切り札であるプラントは、今はこの位置にある』
『……!』
なんてことなく口にされたその情報に、さすがの糸巻も言葉を失った。これは本当の情報なのか?そんな無意味な質問で時間を無駄にするほど、彼女と本源氏の仲は浅くない。それゆえに、この男が嘘をついていないことは即座に理解できたのだ。
『俺が……いや、俺たちが昨日を向いている間に、いつの間にか明日の方を見られる次の世代が育ってて、しかも実力はじきに俺たちのレベルなんて追い越すことになる。恥ずかしい話だがな、糸巻。俺はそんなこと、この13年間考えたこともなかったんだよ』
遠い目をして少女2人を眺め、古傷をぽりぽりと指で掻いて付け加える。どこか疲れたような、燃え尽きたような笑みを浮かべ、こう自分の言葉を締めくくった。
『俺たちはもう、過去の遺物になりつつある。少なくとも、これからはそうなっていく。ははは、これでもずっと一線を張ってきたつもりだったんだがな。だがそう考えると、この計画もこれ以上進めるのがなんだか馬鹿らしくなってきてな。お前がそれを潰してくれるというのなら、それも悪くない』
『……自分でやれ、馬鹿。隠居するのは勝手だが、立つ鳥跡を濁さずっていい言葉が世の中にはあるんだぜ』
『老兵は死なず、ただ消え去るのみとも言うぞ。もうひとつ言うとな、なんだか今のデュエルは疲れたんだよ。楽しかったが、最後にシュラを融合召喚したあの瞬間に俺の中
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