第百四話 まずすることその七
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「やはりな」
「しかもですな」
幻庵も言ってきた。
「敵の動きも見ておられ」
「そして安心してな」
「采配を振るっておられたこともですな」
「実によかった」
「そうですな」
「うむ、戦のこともな」
「そのこともですか」
「新九郎はわし以上じゃ」
こう言うのだった。
「まさにな」
「だからですな」
「むしろあの者が家督を継ぐとな」
「安心しますか」
「わしよりも上の者であるからな」
政も戦もというのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「わしは憂いはない」
全くというのだ。
「むしろ何の憂いがあるか」
「そうしたことですな」
「左様」
「それでなのですが」
今度は異様に大きな鋭い目をした男が言ってきた、風魔の棟梁である風魔小太郎である。彼もまた言うのだった。
「どうもまたです」
「両上杉がか」
「力を合わせ」
そしてというのだ。
「当家にです」
「あたろうとしておるか」
「その動きをです」
「風魔は察したか」
「今下忍達を多く送ってです」
そのうえでというのだ。
「見させていますが」
「間違いなくか」
「その様にです」
両上杉はというのだ。
「動いている様です」
「またしてもか」
「我等の江戸湾の辺りを手中に収め」
「そしてか」
「力をさらに強くし」
「そしてか」
「河越もいよいよ本格的に奪わんとしているので」
だからだというのだ。
「もう河越は奪われる」
「そう見てか」
「その後のことを考え」
そしてというのだ。
「河越を奪い返す」
「そのことを考えてか」
「動いておる様です」
「随分後ろ向きじゃな、いや」
氏綱は目を鋭くさせて述べた。
「後の先じゃな」
「そこを考えた采配ですな」
「敵も愚かではない」
「そういうことですな」
「まして山内上杉には長野殿がおられる」
長野業正という、山内上杉家きっての名将であり彼の力がこの家では武の柱となっている程であるのだ。
「まだ力はある」
「だからですな」
「そうそう弱くない、河越を奪っても」
自分達がというのだ。
「それでもじゃ」
「それが一時ということもですな」
「あってな」
そしてというのだ。
「我等はせっかく手に入れた河越を失う」
「そういうこともですな」
「ある」
充分にというのだ。
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