第三章 黒き天使
第12話 (やっぱり、最高だよ)
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倒れたままの姿勢で意識を取り戻したアカリは、そこが道路ではないことに気づいた。
やや薄暗い。
床は……灰色。石かコンクリートだ。
硬く、冷たかった。
自分の右手に視線を移すと、魔本を握ったままだった。彼が最期に渡してくれたものだ。
見た瞬間、目が熱くなり、鼻の奥がぐっと痛んだ。
なのに、なぜか涙が一滴もこぼれてくることはなかった。
ただただ、熱と痛みだけが、目鼻の奥で行き場なく暴れていた。
ゆっくりと、起き上がった。
ごつごつした質感の壁は、やはり灰色。天井は高い。
どこかのビルの中のようにも感じたが、それにしては飾り気がなく、無造作な印象を受けた。
通路の前方は、すぐに突き当りになっていた。
そこには縦長の窓……というよりは、人がそのまま通れそうな、出入り口のような穴が開いていた。ガラスはおそらく張られていない。そこから外は、やや薄明るい灰色の夜空のみが見えていた。
そして、反対を向くと……。
変な生物がいた。
アカリの一・五倍くらいありそうな背丈で、手足のない黒い影のような体。
頭部にあたりそうなところは、巨大な口だけの構成になっており、だらしなく開いている。やはり黒い色をした口内には、無数の鋭い歯が覗いていた。
足らしいものはない。
なのにその生物は、ゆっくりとスライドするように、こちらに向かってくる。
目の前で止まると、その生物は、首らしき部分を音もなく伸ばしてきた。
――自分を食おうとしているのだろう。
アカリはなんとなく、そう思った。
あんなにいい人を消滅させてしまって、きっと自分は罰を受けるのだろう。
そうに違いないと思った。
もしそうであれば、自分にはお似合いの最期だと思った。
できる限り苦しむように殺してほしいと思った。
アカリの予想どおり、その不思議な生き物は、口を大きく開けた。
もともと巨大だった口がさらに開き、考えられないほどの大きさになった。
そのまま助走をつけるように頭部を後ろに引くと、一気に――。
「……?」
だがそこで、黒い影の動きが止まった。
そして下のほうから、薄く広がりながら床に吸収されるように、体が崩れていく。
ものの数秒で、完全に消滅した。
何もなくなった目の前。
その先には、シンプルな黒い槍を突き出している男性がいた。
「声ぐらい出しなさい。今そのまま食われていたら、君の魂はこの世界から消滅していたぞ? 守られた命、そう簡単に手放すべきではない」
その男性は槍先を下ろすとそう言い、少し笑った。
髪は黒いが、目元の笑いジワからは、それなりに歳を取っているように見える。黒色のベストを着ており、白の
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