第三章 黒き天使
第11話 今まで生きてきた中で、一番楽しかった
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らスマホを取り出そうとしたアカリだったが、その腕がつかまれた。
ミナトの右手だ。
震えていた。
「気にしなくていい……ケガなんてしてない。けど、俺は契約違反で……消えてなくなるんだ」
「き、消え……? う、嘘だよね?」
彼の全身が、薄暮の中、うっすらと光に包まれてきていた。
それが意味するところは……認めたくなかった。
「……違反って何……わけわかんないし……。どこかケガしただけなんでしょ? ケガってすぐ治るって言ってたよね? 大丈夫なんだよね?」
「ごめんな。こうやって見せる予定じゃ……なかったけどな……。でも事故が……俺が消える前で……よかった」
彼を包む光が徐々に増してくるとともに、その褐色の肌が徐々に半透明になっていく。
「や、やだよ……。契約は終わったんだろうけどさ、また予定合わせて会おうよ。また旅行にも行こうよ。あんたが行きたいところに合わせるからさ。今度はさ、私がちゃんとガイドブック読んでガイドするから――」
「アカリ、これを」
左手で力なく差し出されたのは、彼が旅行中に持っていた魔本だった。
「さっき、俺、慌ててたから……礼を……言うの忘れてた……旅行、すげー楽しかった……サンキューな」
両目の瞼が、ゆっくりと閉じられた。
体全体を包む光が、いっそう強くなっていった。
「アカリ……人間として……この世に生まれる可能性って……どれくらいなんだろうな……」
「……」
彼が目をつぶったまま微笑む。
その体はどんどん実体がなくなり、ただの光に置き換わっているように見えた。
「人間として生まれるって……きっとそれ自体が幸せなんだ……。ああ、これは魔本の言葉じゃなくて……今考えた、俺の――」
体が完全に大きな光の塊となり、そこから小さな光の粒へ、急速に分解されていく。
やがて、何もなくなった。
あたりに響き渡る、アカリの絶叫。
それが途絶えると、意識を手放したその体が、ゆっくりと地に沈んでいった。
駆け寄ってきていたワゴン車の運転手の声。
集まってきていた通りすがりの人たちの声。
あたりは騒然となった。
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