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黄泉ブックタワー
第三章 黒き天使
第11話 今まで生きてきた中で、一番楽しかった
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ていたと思われたが、アカリには不思議なほどスローモーションに見えた。

 ゆっくりと迫る、大きな塊。

 そのナンバープレートも、フロントガラスの向こうの運転手も。ぼやけてはいたけれども、ゆっくりと拡大していく。
 ああ、はねられるのか、と、やはりぼやけた頭で思った。

 だが、刹那――。

「――?」

 体の後ろに強い衝撃があり、前に……いや斜め上の方向に、突き飛ばされたような、打ち上げられたような、そんな感覚がした。
 抱えられている気がしたが、突然かつ一瞬のことで、何が起きているのかよくわからない。

 よくわからないまま、パキパキという音とともに体が止まった。

「……」

 空が、見えた。
 横断歩道の向こう側に植えてあった、枝葉が細かく丈の低い植樹。音から判断するに、おそらくそこに背中から着地したのだろうと推測した。

 発射時と違い、着地の衝撃はほとんどなかった。
 痛みも……まったく感じていない。小枝のチクチクすらもなかった。
 背中に感じるのは、この暑さでもまったく不快に感じない熱。
 これは――。

「ミナト!」

 起き上がると、やはりそうだった。
 アカリの下にいたのは、黒い羽の生えた、褐色の青年。
 車にはねられる寸前、彼が飛んできて助けてくれたのだ。

「アカリ……悪魔的には契約は終わったけどよ……人間的には家に帰るまでが旅行だろ……? 気を抜いたら……だめだ……」

 彼は植樹に埋もれたまま、左手で魔本を開き、弱々しい笑顔を浮かべた。

「ああ、でも……お前がボーっとしてたの、俺が原因ぽいよな……悪かったな……」

 もう会えないはずの彼がいるという混乱よりも、歓喜の感情が圧倒的に勝った。
 アカリは彼の腕を取って起き上がるのを手伝い、そのまま抱きついた。
 彼も、腕を回してきた。

 すべてが、優しかった。
 体も、腕も、手も。わずかに当たる、魔本の背すらも。

 最初に会った日、そして旅行一日目。どうしてこの体につかまるのを断ってしまったのだろう――。
 そう後悔するくらい、優しい感触がした。
 なのに。

 彼の手と魔本が、すぐにアカリの背中を滑り落ちた。

「え」

 手だけでなかった。彼の全身から力が急速に抜けていった。
 そしてアカリの体の前面を滑るように崩れ落ち、沈む。

「ミナトっ? 大丈夫? どこか大きなケガした?」

 アカリは慌ててしゃがみこみ、彼の頭が地面に激突しないよう、両手で食い止めた。
 さっき渡されたバッグが、すぐ前に落ちていた。それを枕にし、傷ついた羽を下敷きにしないよう、慎重に横向きに寝かせた。

「ちょっと待って。い、今救急車を」

 急いでバッグのサイドポケットか
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