第三章 黒き天使
第11話 今まで生きてきた中で、一番楽しかった
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な響きが含まれていたからだ。
アカリはうつむいてしまった。
「アカリ。お前は、俺との約束を破るつもりなのか?」
――。
破ると言えば、この先も会えるのだろうか。
「私は……」
そう言えば、この先も様子を見にきてくれるのだろうか。
また魔本を見ながら、説教をしてくれるのだろうか――。
「破らないよ」
でも、それを口にすることはできなかった。
「私は、たぶん守る。いや、絶対守るよ」
顔をあげ、目をしっかり見て、そう答えた。
約束を守る。彼のためにできることは、それしかないだろうから。
「だよな。そう言ってくれると思った」
彼がまた笑った。
その笑顔を見るのはもう、つらくなっていた。
しかしそれでも、アカリは頑張って目を合わせ続けた。
「じゃあ、俺はもう時間がないから。本当に行くぞ」
ミナトが、傷ついた羽を大きく広げた。
「……うん。わかった。ミナト、ありが――」
「アカリ、もうツイッターに変なこと書くなよ? 元気でやれよっ」
感謝の言葉を遮ると、彼は背を向け、空へと飛んだ。
「あっ、ちょっと待っ――」
思わず伸ばした手は、もちろんどこにも届かなかった。
彼の姿は、あっという間に小さくなっていく。そして塔の後ろに回り、すぐに目で追えなくなった。
「……」
礼すらも言わせてもらえなかったアカリは、空を見上げ、呆然と立ち尽くした。
* * *
何分くらい、その場でボーっとしていたのだろう。
誰もがうだるような暑さはそのままに、暗さが確実に増してきていた。
空も赤くなってきている。もうすぐ日没となるだろう。
「あ……」
目の焦点を取り戻したアカリは、塔が消えていることに気づいた。
もう完全に、いつもの秋葉原の景色となっていた。
――私も、帰ろう。
いつも使っている都営地下鉄の駅に向かって、歩き始めた。
もう、二度と会えない。それを考えないようにしようと思っても、無理だった。
足が地をつかめなくなっていて、歩いているというよりも、フワついているという感覚のほうが近かった。
肌に貼りつくシャツの不快感も徐々に薄れ、ただぼんやりとした景色だけが流れていく。まるで自分の目で見ていないようだった。
だからかもしれない。
普段は犯さないミスをしてしまった。
信号がない横断歩道。いつもなら、必ず左右を見て横断歩道を渡っていたのに。
このときだけ、うっかり、前だけを見て進んでしまった。
――あ。
左折してくる大きなワゴン車に気づいたときには、もう遅かった。
明らかに徐行ではない速度が出
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